【鬼滅の刃】あなたを愛した時間 2【煉獄杏寿郎】

番外編 約束.3 ページ33

みんなでお弁当を食べて、近況報告なんかをしつつ、思い出話に花を咲かせる。
みんな笑っていた。

「……。」

私は、ふと車窓の外に目を向けた。
流れるような景色、どこまでも青い空は広がっている。

いつか、遠い場所へ行こうと約束をした。
私たちはどこにだって行けると思っていたし、行けるはずだった。
まだまだ未来は希望に満ちていて、どんな夢だって思い描いていけるはずだった。

今、私の隣に杏寿郎さんはいない。
どれだけ願っても、もう杏寿郎さんと共に生きていくことは出来ない。
それを受け入れるのにも、随分と時間がかかった。
今は少しだけ、それを受け入れられるようになったようで、恋しい気持ちも確かにある。
そんなに簡単に気持ちを切り替えることなど出来ない。

杏寿郎さんだけじゃない。
しのぶさんや蜜璃さんだって、もういない。
他にも共に戦った仲間は沢山いたし、沢山失ってしまった。
取り戻したくても、取り戻せないものが沢山ある。

だからこそ、今を生きる私たちは互いの傷や痛みを慰め合いながら、前に進み続けている。
思い出を振り返って立ち止まってしまうときもあるけれど、決してそこから動けなくなることなどないように。
沢山の人が繋いでくれたこの命が、いつかまた誰かを繋げるように。

そうなれたら、どんなに良いだろうか。

「Aさん？眠たくなってしまいましたか？」
「すみません、電車の揺れが心地よくて」
「あはは、そうですよね。慣れてくると眠たくなっちゃいますよね」

炭治郎くんと禰豆子さんが笑った。
私は窓の外に顔を向けたまま、そっと瞼を閉じる。

温かな日差しが降り注ぐ。
穏やかな空気に、胸がとくんと鳴った。



「約束を守ってくれてありがとう」

ふと、そんな声が聞こえた気がした。
けれどそれは幻聴でしかなく、決して現実のものではない。
私は、心の中で「寂しくても、生き続けていきます」と答えた。

頬を静かに涙が伝っていく。
その雫を指先で拭って、誰かが困ったように笑った気がした。


−完−

ーーー
列車に乗る話が書きたかったので、書きました。
煉獄さんは、女の人の涙に弱いというやつです。

2021/02/09 月ヶ瀬ましろ

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