番外編 約束.2 ページ32
私たちは暫く歩き続けて、ようやく目的地にたどり着いた。
大きな黒塗りの機関車がそびえ立ち、先頭には『無限』と書かれている。
あれから随分と時間がかかってしまったが、私はようやく杏寿郎さんとの約束を果たすことができる。
「大きいですねぇ……」
「俺も最初はびっくりしました。でも、本当に乗るんですか?」
「はい、杏寿郎さんと一緒ではありませんが遠くに行こうと約束したので」
杏寿郎さんが無限列車へと旅立つ前日、私と杏寿郎さんはいつか一緒に列車に乗って遠くへ行こうなんて話をした。
炭治郎くんとの文通を続けていく中で私はそれを思い出し、今回このようなかたちで同行を願い出たのだ。
炭治郎くん達はすぐに快諾の返事を送ってくれた。
「炭治郎!」
「あ、義勇さん!宇髄さん達も先に来てたんですね!」
「おー、久しぶりだな。嬢ちゃん」
駅には冨岡さんと宇髄さん一家がいた。
宇髄さん一家とはそれなりに付き合いがあるけれど、冨岡さんは随分と久しかったので、私は「お久しぶりです」と言って笑った。
「あぁ、久しいな。元気そうで良かった」
そう言って、冨岡さんは笑った。
私は、冨岡さんがこんなにも柔らかく笑う人だと知らなかったので、少しだけびっくりした。
けれど、それはとても素敵な変化だと思って、すごく嬉しかった。
それから、私たちはそれぞれ切符を買って無限列車に乗り込んだ。
あの夜、無限列車での死闘は世間では脱線事故として片付けられ、列車自体の修復にもかなりの時間がかかった。
だから、今の無限列車は杏寿郎さんが乗ったものとは全く違うものではあるが、私は車内を見渡しながら、杏寿郎さんに想いを馳せた。
みんなも、ただ黙って流れる景色を見つめていた。
「あ、これ……煉獄さんが沢山食べてたお弁当だ」
ふと、炭治郎くんが車内にやって来た弁当売りの女性が持つお弁当を見て、そう呟いた。
私は女性に人数分のお弁当を売ってくれるよう頼んで、お代を渡す。
「今日はお付き合い頂いて、ありがとうございます」
そう言って一人一人にお弁当を渡すと、炭治郎くんが「そんな、悪いですよ」と慌てたように手を振る。
「受け取ってください。他に食べたいものがあったら、申し訳ないですが……」
「いいじゃねぇか、もらっとけ。煉獄だって、どうせ『うまい!』つって食ってたんだろ」
「それは、そうですね」
宇髄さんがそう言うと、炭治郎くんは笑った。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ティカさん» はじめまして、お読み頂きありがとうございました。数ある作品の中から、ティカさんの中で1番だと思って頂けたことが本当に光栄です。これから先、更に心に響くものが書けるようより一層精進して参りたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年3月4日 18時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - あなたの小説とても大好きです!!これからもがんばってください!!応援してます!!!!! (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - コメント失礼します。今回、ましろさんの作品を初めて読まさせていただきました。時間も忘れて夢中になって読んでしまいました...。とても感動するもので、今まで読んだ夢小説の中で一番好きです!最後の方は涙が止まりませんでした(T-T) (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 羽っこ。さん» 失ってしまったものは元に戻らないですが、人生はこれからも続いていくので、生き続けて欲しいという願いで書きました。上手く汲み取って下さり、ありがとうございます!コメントありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
羽っこ。(プロフ) - コメント失礼します!番外編読みました…!凄く感動しました。本編もそうですがその夢主ちゃんの強く生きていこうとする様子に心打たれました。切ないながらも希望に満ちている感じが凄く好きです!(^-^) (2021年2月9日 22時) (レス) id: 14df97ccd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2020年12月31日 15時