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「気を遣わせたようで申し訳ない」

そう、心痛そうな面持ちでこぼした槇寿郎さんに「自分で決めたことですから」と私は答えた。
杏寿郎さんの葬儀に参列しなかったことは、自分自身でそうしたいと思って決めたことだ。

「杏寿郎さんも怒ってないと思います。たぶん」

最後ぐらいは家族水入らずの時間を過ごして欲しかった。
私は杏寿郎さんの家族ではなかったから、遠慮してしまったけど、きっと杏寿郎さんなら笑って許してくれるはずだ。

槇寿郎さんからお借りしていた着物を返すために、久々に煉獄邸へと訪れていた。
葬儀の一件もあり、どう思われているのかだけは不安だったけれど、槇寿郎さんは快く私を迎え入れてくれた。
最後にここへ訪れたのは、そんなに昔のことではないはずなのだけれど、何故だか前とは違った風景に見える。
杏寿郎さんが隣にいないというだけで、こんなにも世界は変わってしまうのか。

「君はもう他の男とは一緒になる気はないのか?」

槇寿郎さんは私の意思を確認するかのように、そう問いかけた。

「そうですねぇ…杏寿郎さんよりも素敵な殿方っているんですかね」
「鬼殺の音柱からの誘いは断ったのだろう」
「さすがに養子は無いな〜と思ったので」

宇髄さんが私の家へ来たときのことを思い出して、思わず笑ってしまった。
杏寿郎さんは生前、もしものことがあった場合は宇髄さんに私を託すつもりだったそうで。
しかし、宇髄さんには既に奥さんがいたから、養子としてなら引き受けられると言ったらしい。
遺書に「後のことは宇髄に頼んである」なんて書いてあったものだから、私はどう断ろうか必死に考えていたのに、まさかの養子で拍子抜けしてしまったのだ。

「しかし、君がまた誰かと生きていきたいと思うのなら、俺の伝で縁談を用意することも…」
「お気遣いありがとうございます。でも、こればっかりは自然の流れに身を任せようかなぁって思います」

それで生き遅れてしまったら、それまでだ。
もしも、いつか杏寿郎さんを超える素敵な人と出会えたとき、その時に考えようと思う。
今はまだ、ここに立ち止まっていたい。
私はまだ、杏寿郎さんのいない世界に慣れてもいないのだから。


それからの日々は、あっという間だった。
結局、杏寿郎さんを超える殿方と出会うのは本当に難しくて、ことの顛末はとても人様に聞かせられるようなものでもなかった。
それでも、私は何とか今日も生きている。
少しずつ、少しずつ、前に進んでいる。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎   
作品ジャンル:恋愛
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ティカさん» はじめまして、お読み頂きありがとうございました。数ある作品の中から、ティカさんの中で1番だと思って頂けたことが本当に光栄です。これから先、更に心に響くものが書けるようより一層精進して参りたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年3月4日 18時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - あなたの小説とても大好きです!!これからもがんばってください!!応援してます!!!!! (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - コメント失礼します。今回、ましろさんの作品を初めて読まさせていただきました。時間も忘れて夢中になって読んでしまいました...。とても感動するもので、今まで読んだ夢小説の中で一番好きです!最後の方は涙が止まりませんでした(T-T) (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 羽っこ。さん» 失ってしまったものは元に戻らないですが、人生はこれからも続いていくので、生き続けて欲しいという願いで書きました。上手く汲み取って下さり、ありがとうございます!コメントありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
羽っこ。(プロフ) - コメント失礼します!番外編読みました…!凄く感動しました。本編もそうですがその夢主ちゃんの強く生きていこうとする様子に心打たれました。切ないながらも希望に満ちている感じが凄く好きです!(^-^) (2021年2月9日 22時) (レス) id: 14df97ccd2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2020年12月31日 15時

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