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「竈門さんは濃いめのお茶と薄めのお茶のどちらが好きですか?」
「えっ……」
自宅に上がると、Aさんが俺にそんな問いを投げかけてきた。
「こだわりはないですが、強いていうなら……薄めかなぁ」
「わかりました」
Aさんは俺の答えに少しだけ笑うと、お茶を淹れ始めた。
部屋の中を見回すと、女性の自宅でありながらも男性物の着物が置いてあったり、煉獄さんが使用していた結い紐と同じものがあったり、改めてこの人は煉獄さんと深い関係にあったのだと察した。
やがて、Aさんは湯呑みを2つ持って戻ってきた。
それを2つとも俺の前に置く。
「え……」
2つも置かれた意味が分からず、首を傾げていると急にAさんは「あっ!」と小さく叫んだ。
彼女の視線を辿ると、彼女が先ほど抱き抱えていた真っ白な猫が禰豆子の入っている箱をカリカリと引っ掻いていた。
「こら!ごめんなさい、竈門さん」
「あ、いえ……」
「だめですよ、千代丸さん。これは竈門さんの大切なものなんですから」
そう言ってAさんは千代丸と呼ばれた猫を箱から引き離すと、そのまま抱き抱えて座った。
彼女が何故、俺の前に2人分の湯呑みを置いたのか、その理由が分かってしまった俺は俯く。
この人は、とても優しい人だ。
「煉獄の生前にお話は聞いています。でも、いくら室内でも昼間には出て来ないんですかね」
「いえ、いえ……出てくることもあって………すみません、俺が……俺が泣いたって………すみません」
優しくて気丈な人だ。
俺は未だに己の不甲斐なさの中にいて、何も出来なかった自分が情けなくて、悔しくて申し訳なくて。
俺よりもずっとこの人の方が煉獄さんとの時間、思い出、それらを持っていて悲しいはずだ。
だけど、彼女は涙を流す俺を見つめて「彼が最後に共に戦った人が貴方のような方で良かった」と微笑む。
「私は…かつて、煉獄の継子でした」
「え……?」
「私には煉獄の信念を継ぐことが出来ず、断念してしまいましたが……貴方が、鬼になってしまった妹さんを人間に戻すべく戦っていること、そのお話を煉獄から聞いたとき、私はどんな風に思えば良いのか分からなかった」
Aさんはそう言って、瞳を伏せた。
「私もかつて家族を鬼に斬殺され、その仇のために沢山の鬼と戦って……いくら本当に人を食べない鬼がいると聞かされても、実感がなくて」
でも、とAさんは顔を上げる。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ティカさん» はじめまして、お読み頂きありがとうございました。数ある作品の中から、ティカさんの中で1番だと思って頂けたことが本当に光栄です。これから先、更に心に響くものが書けるようより一層精進して参りたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年3月4日 18時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - あなたの小説とても大好きです!!これからもがんばってください!!応援してます!!!!! (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - コメント失礼します。今回、ましろさんの作品を初めて読まさせていただきました。時間も忘れて夢中になって読んでしまいました...。とても感動するもので、今まで読んだ夢小説の中で一番好きです!最後の方は涙が止まりませんでした(T-T) (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 羽っこ。さん» 失ってしまったものは元に戻らないですが、人生はこれからも続いていくので、生き続けて欲しいという願いで書きました。上手く汲み取って下さり、ありがとうございます!コメントありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
羽っこ。(プロフ) - コメント失礼します!番外編読みました…!凄く感動しました。本編もそうですがその夢主ちゃんの強く生きていこうとする様子に心打たれました。切ないながらも希望に満ちている感じが凄く好きです!(^-^) (2021年2月9日 22時) (レス) id: 14df97ccd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2020年12月31日 15時