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「無限列車ですか…」
「そうだ!大勢の隊士が消息不明となっているらしい!」
そう次の任務について話してくれたのは、杏寿郎さんが任務先に出立する日のことだった。
任務に赴く前に私に会いに来てくれたらしい。
その日は、他の隊士も丁度いない状況だった。
「自宅よりも君の家から行く方が近いんだ」
「そうなんですね!じゃあ、今日は…」
「うむ、夜になる前に出立することになるが、それまではここにいるつもりだ」
杏寿郎さんから羽織を預かって畳む。
もう随分と前からここには杏寿郎さんの着物が置いてあって、他にも杏寿郎さんの私物がいくつもある。
ここを利用する隊士だけじゃなく、たまにやって来る宇髄さんや蜜璃さんにも、早く結婚すればいいのにと言われている。
でも、私は今の関係にだって幸せを感じている。
それに、たとえ今結婚しても突然関係が変わるわけでもないだろう。
私と杏寿郎さんがお付き合いを始めた頃がそうだったように。
「あ、でも今日はさつまいもがないんです」
備蓄してある食材を確認して、私は肩を落とす。
折角だから杏寿郎さんの好きなものを使って、送り出したかった。
町まで買い物に行こうかと悩む私に、杏寿郎さんは「気にするな。それよりも俺は出立する直前まで君と過ごしたい」と笑った。
そんな杏寿郎さんの願い通り、私は家にあるもので夕餉を用意することにした。
私は千寿郎くんに比べると料理上手という訳ではなかったけれど、いつだって杏寿郎さんは「うまい!うまい!」なんて言って、残さず食べてくれた。
それから、杏寿郎さんが出立するまでの時間は2人でゆったりとした時間を過ごした。
私が列車に乗ったことがないと言うと、杏寿郎さんは「それなら、今回の任務が終わったら遠出をしよう!2人で遠い場所に行ってみよう!」なんて言った。
私は列車の乗り方も分からないけれど、杏寿郎さんが鬼を倒して安全になった列車に2人で乗って、そして遠い場所へ行くことが出来るんだと思うと、胸がぽかぽかと温かくなった。
「でも、どこに行きましょうか」
「そうだな…日本にはまだ行ったことがない場所が沢山あるからな!これから2人で日本一周してみるのもいいんじゃないか?そして、気に入った場所があれば何度も行けばいい!」
「そうですね」
出立するまで仮眠をとると言った杏寿郎さんにならって、私も布団の上に横たわる。
「おやすみなさい、杏寿郎さん」
「あぁ、おやすみ。A」
それが、私たちの最後の会話だった。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ティカさん» はじめまして、お読み頂きありがとうございました。数ある作品の中から、ティカさんの中で1番だと思って頂けたことが本当に光栄です。これから先、更に心に響くものが書けるようより一層精進して参りたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年3月4日 18時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - あなたの小説とても大好きです!!これからもがんばってください!!応援してます!!!!! (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - コメント失礼します。今回、ましろさんの作品を初めて読まさせていただきました。時間も忘れて夢中になって読んでしまいました...。とても感動するもので、今まで読んだ夢小説の中で一番好きです!最後の方は涙が止まりませんでした(T-T) (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 羽っこ。さん» 失ってしまったものは元に戻らないですが、人生はこれからも続いていくので、生き続けて欲しいという願いで書きました。上手く汲み取って下さり、ありがとうございます!コメントありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
羽っこ。(プロフ) - コメント失礼します!番外編読みました…!凄く感動しました。本編もそうですがその夢主ちゃんの強く生きていこうとする様子に心打たれました。切ないながらも希望に満ちている感じが凄く好きです!(^-^) (2021年2月9日 22時) (レス) id: 14df97ccd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2020年12月31日 15時