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再三言っているように、私は生まれつき貧しい暮らしをしている。
その暮らしに慣れているが故に、昔から普通の人よりも就寝時間が早かった。
実家は、日が沈むと同時に就寝するような家だった。
そんなことで、今現在の暮らしも似たようなものだった。
日が沈むと同時に、いつものように布団に潜り込む。
隣には、杏寿郎さんがいた。
「春とはいえ夜はまだ冷えるな」
私の家には布団が一つしかない。
杏寿郎さんの声がすぐ側で聞こえて、暗闇の中でも彼が近い距離にいるのだとよく分かった。
私は、杏寿郎さんは自宅に帰るのだと思っていた。
だけど、杏寿郎さんは私の家に上がったときから泊まるつもりだったようで、慌てる私に「嫁入り前に手出しはしない」と眉を下げて笑っていた。
「端の方は寒いだろう。もっと寄りなさい」
杏寿郎さんはそう言うと、私の背中に腕を回して引き寄せた。
先程よりも近付いた距離に思わず身体が強張る。
そんな私の様子を感じ取ったのか「何もしないと言ったろう」と笑う。
「すみません…なんか、緊張してしまって」
「俺も君と同じだ。ほら…」
頭が胸元に引き寄せられる。
杏寿郎さんの厚い胸板に耳を寄せると、確かに大きく脈打つ音が聞こえた。
「ほんとうだ……あ、私のも確かめますか?」
「いや、それは駄目だろう!君のご両親に申し訳が立たない!」
「あ……すみません…」
一緒だということを証明したかっただけだったが、結果としてとても大胆なことを言ってしまったと顔を羞恥で赤くする。
杏寿郎さんは「君はたまに抜けているな」と可笑しそうに笑った。
「俺にはまだまだ知り得ない君が沢山いるんだろうな」
そう、感慨深そうに杏寿郎さんは呟く。
それはきっと私も同じだ。
私には、まだまだ知らない杏寿郎さんが沢山いるのだろう。
例えば、今日の少し意地悪な杏寿郎さんだって、私にとっては新たな発見だった。
「杏寿郎さんはいつも優しいのに…びっくりしちゃいました」
「そうだろうか…俺は昔から厳しいと言われることの方が多かったぞ」
「厳しいことと優しくないことは違うじゃないですか…」
確かに、杏寿郎さんはとても厳しい人だと思うときもある。
特に稽古のときはそれが如実に表れていて、私も何度か挫けそうになったことがある。
「でも、杏寿郎さんは私が辛いなぁって思ったとき、いつも手を差し伸べてくれて…大丈夫、まだ強くなれるんだって思わせてくれて」
そういうところを、私は好きになったのだ。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ティカさん» はじめまして、お読み頂きありがとうございました。数ある作品の中から、ティカさんの中で1番だと思って頂けたことが本当に光栄です。これから先、更に心に響くものが書けるようより一層精進して参りたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年3月4日 18時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - あなたの小説とても大好きです!!これからもがんばってください!!応援してます!!!!! (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
ティカ(プロフ) - コメント失礼します。今回、ましろさんの作品を初めて読まさせていただきました。時間も忘れて夢中になって読んでしまいました...。とても感動するもので、今まで読んだ夢小説の中で一番好きです!最後の方は涙が止まりませんでした(T-T) (2021年3月4日 1時) (レス) id: 0c31e8c5ec (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 羽っこ。さん» 失ってしまったものは元に戻らないですが、人生はこれからも続いていくので、生き続けて欲しいという願いで書きました。上手く汲み取って下さり、ありがとうございます!コメントありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
羽っこ。(プロフ) - コメント失礼します!番外編読みました…!凄く感動しました。本編もそうですがその夢主ちゃんの強く生きていこうとする様子に心打たれました。切ないながらも希望に満ちている感じが凄く好きです!(^-^) (2021年2月9日 22時) (レス) id: 14df97ccd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2020年12月31日 15時