肆拾陸 ページ45
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「…そういえば、ここは錆兎さんは棲んでおられないのですか?」
ぱっと部屋を見渡した限り、冨岡さん以外の荷物や雰囲気は無かった。
同じ水柱で、水屋敷に暮らしていると勝手に思っていたんだけど。
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冨岡「……水屋敷は、此処の他にもう一つある。
錆兎は其処で生活している。そうすれば広い範囲を見回ることが出来るからな」
「ああ、確かに」
水の柱が二人居ると言っても、それぞれが普通に個人の柱の地位にいるからね。
錆兎さんと冨岡さんが二手に分かれても、技術的に何ら変わりは無いだろう。
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冨岡「………それと、」
「?」
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冨岡「…お前は何故、俺は”冨岡さん”で、錆兎だけ名前で呼ぶんだ?」
「………え?」
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何を言ってるんだ冨岡さん??
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「…??
冨岡さんは冨岡さんですよね??」
冨岡「そういうことではない」
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「……えーと、錆兎さんが、“鱗滝”というのは師の名前であり、そのように呼ばれるのは恐れ多い……と言われたので、
…というか、冨岡さんが一番分かっていらっしゃるじゃないですか」
いやほんと慣れなかったよ最初は。
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冨岡「義勇、だ」
「はい???」
ちょっと状況が理解し難い。
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「……そう、呼べと?」
冨岡「ああ」
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「………このご時世、名前で呼び合う男女なんて兄弟か、恋人と夫婦ぐらいですよ」
冨岡「……お前、錆兎と夫婦だったのか」
「それは違うんですけれども」
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じっ、と手を止めて此方を見る冨岡さん。
やめて、顔に慣れないから。そんなきらきらした顔、直視できないから。
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冨岡「……A、」
「な"っ………」
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あ"ぁもうこれ言わなきゃ解放されないやつ…??
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「………ぎ、…義勇さん、」
冨岡「!」
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もうやめてよ、
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変に勘違いしそう。
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そんな優しい笑顔、どうして私に向けるのか。
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冨岡「……ああ、それでいい」
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心臓が煩い。
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ゆう - もうほんと、プロかってくらいの文才ですね半分分けろ(?) (2020年10月8日 22時) (レス) id: 7af342ea3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伊咲 | 作成日時:2020年5月9日 15時