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「あ、見えなくなっちゃった」
寂しそうに車窓を覗く有馬は
煌めいた海に何かを重ねていたのか
目を細めて遠くを見つめては
長い睫毛の影を少しだけ深めて
支えたもの全部、俺に、なんて
そんな格好いい事、まだ、言えるほど
俺は、有馬を知らない
それが悔しいのに悔しくて仕方ないのに
彼女の深いところに踏み込めない、、
だから、、
咄嗟に掴んだか弱い彼女の手を
未だに解かずにいる。
繋がることが怖いわけじゃない、はず、なのに、、
有馬の影に飛び込むのは
俺だけの選択でしていい事ではないんだ。
有馬の深いところは
俺が勝手に触れていいものじゃない。
有馬が俺ならって全部吐き出してくれるまで
それまでは、、
こうして
何処かに行ってしまいそうな手を
掴んでいる事だけは許してくれるだろうか、、
「有馬？」
住宅街を横断するように走る電車の車窓から
目線を落とした有馬を覗き込むと
彼女はぎこちない表情で眉を垂らしていて
「ん？ どした？」
「っ、あの、」
「えと」と口籠もる有馬は
繋がれたままの俺の手に視線を配らせる。
、、ごめん、有馬
もう少しだけ、こうさせて
こうしてないと
また、どっかに飛んでくだろ、、？
気持ちだけ、、どっか行っちゃうじゃん、、
「川上くん、その、、」
「ん？」
「っ、ん、何でもない、、」
訴えても解いてはもらえないと分かったのか
有馬は少しだけ困ったような顔を浮かべながら
また窓の外へと興味を移していった。
「なぁ、有馬」
「ん、川上くん、どうかした？」
「や、大した事じゃないけど、」
「え、何、気になるから教えてよ」
くるっと振り返った有馬から
あの日と同じ香りが舞った。
杏仁豆腐に似た
懐かしくて甘くて柔らかい香り、、
「っ、海、」
「ん、海が、どうしたの？」
「、、なんで海、行きたかったのかなって、、」
柔らかい午後に差し掛かる日差しと
甘く揺れる有馬の香りにほだされたのか
踏み込んでいいとこじゃないのに
突っ込みそうになる
取っ掛かりは何でもいいわけじゃないのに
なんで、俺、飛び込んじゃったんだろ、、
「、、海、好きなの」
この先は、俺が知らない、、
有馬の全て、、
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作者名：蒲公英 | 作成日時：2018年1月26日 4時
