10. ＊＊＊ ページ10
「じろ」
「ん？」
約束の一時間まで、まだあと、少し。
走る色鉛筆の音をBGMに過ごす幸せを、目一杯感じながら。
ベンチに腰掛けなおし、
半分になったカフェオレと、これまた五郎お手製のクッキーを真ん中に置いて、
そよぐ風に、身を任せて。
「仕事、いそがしい？」
「うん、でもだいじょうぶ」
「......そっか」
揺れる髪、香る甘い匂い、
お互いに視線を合わせないまま繋いでいく言葉に、
風に揺れる葉の音が、重なって。
「.......しごと、.....たのしい？」
その言葉の終わりの方は、消えてしまいそうだったけれど。
「うん、楽しい」
二郎はその言葉に、これまでと“同じよう”に、答えた。
それは何度も何度も話し合って。
何度も何度も、伝えてきたこと。
でも。
何度でも何度でも、伝えてあげようと、思うこと。
「いちくん、」
『検事になりたい』
そう言って、夢へと続く道を走り出した二郎。
その二郎が今、弁護士として働く道を歩んでいるのは、一郎の、ため。
それは曲げようのない、真実。
「そりゃあね？いろいろある、うん。.....ほんと、いろいろ」
だけどそれは、一郎の「せい」では、ないことを。
「でもね、いちくんが笑ってくれたら、ちょっとね、強くなれる」
前向きな前向きな思いがそこに、存在していることを。
「それはねきっと、勇気が湧くから」
自分を無理矢理、納得させたのではなくて。
心から心からそう、思ったのだと。
「俺が今、ここでこうして笑っていられるのはね、
いちくんが、いてくれるからなんだよ」
何度でも、何度でも何度でも、何度でも。
あの日と同じ顔をして、
二郎をじっと、見つめている一郎。
『弁護士事務所に就職が決まった』と、兄弟たちに報告した日と同じ。
眉間にしわを寄せて
眉毛を目一杯下げて
目にいっぱい涙を溜めて
『なんで！！どうして！！』と掴みかかってきた、あの日と同じ。
あれから幾年の、時が経ち。
お互いの置かれてる状況も、変わったけれど。
想いは何も、変わってない。
「ありがとう、いちくん。ここにいてくれて、」
ありがとう。
そう微笑む、二郎の笑顔も。
あの日と何も、
.....いや、あの日よりずっと、ずっとずっと、
確かな想いがそこに、輝いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 650人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マナ - 作者さんに質問です。あなたは茨城県北茨城市磯原町の出身、または住んでいますか？ (2021年11月27日 20時) (
レス) @page1 id: 8df98fa480 (このIDを非表示/違反報告)
檸檬(プロフ) - こんにちは。その後が気になっています。また、お時間あるときに続きをお願いします。 (2021年7月17日 17時) (レス) id: d5f4de7f1a (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - ううっっ！ いちくーん。以上心の叫びでした。きっとこの先に幸せな未来が来るんだよね？ね？ね？心静かに待ちます。 (2021年1月14日 15時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - そか、マイガールだから、舞賀家か〜....なるほどぉ. (2020年8月13日 18時) (レス) id: 84fdbed2f6 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - あっちゃんさん» 続)「うちのいっちゃん」なあの写真を想像しながら書いてるよ。なかなか筆が進まないことも多いけど、読んでくれたら嬉しいです。本当にありがとう！！ (2020年8月7日 14時) (レス) id: 075ae85cbe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mio
| 作成日時：2020年3月12日 0時
