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『いいの？』
「うん。この前松倉がくれた傘、玄関の傘立てに刺しっぱにしてるし、それ使って帰ろう」
『ありがとう』
「また部活で隠れ鬼してて、終わるまでちょっと時間あるんだけど、ここにいてもいい？」
『うん、もちろん』
宮近くんは、私がいる前の席の椅子に前後逆に跨って座った。
「最近、ボーっとしてるでしょ」
『ごめんね。迷惑かけてた？』
「迷惑とかじゃないけど、海人がずっと心配してるから」
宮近くんは、心配じゃないんだ。
なんて、少し傷ついたのは内緒。
「よかったら、理由聞かせて？」
『……宮近くんは』
「ん？」
『恋って、したことある？』
「恋バナ？珍しいね」
前の席から、私の机に頬杖をついて、見つめてくる。
「したことあるよ」
見たことないくらい、優しい顔で。
したことあるっていうことは、今はしていないってこと？
その優しい表情は、過去に想った女の子に対して？
……なんだか、モヤモヤが増えた気がする。
『私、分からなくて』
「恋が？」
『うん』
宮近くんは少し俯くと、安心したような顔をした。
「それでずっと考えてたんだ」
『え？』
「ここ数日、お昼ご飯食べてる時もずっと顰めっ面だったの気付いてない？」
『気付かなかった』
「Aは、どうして恋について考えてるの？」
『どうしてって……』
どうして？
海斗に、宮近くんのことが好きか聞かれたから？
『どうしてだろう』
「んふっ、わかんない？」
『うん』
どうして、どうして……？
ダメだ、考えれば考えるほど分からなくなる。
「恋、したいの？」
『恋が分からなくて、したいかどうかも分からないけど……でも、周りに置いていかれている気がして』
「好きな人って、無理に作るようなものじゃないと俺は思うけどね。そもそも作ろうとして作る方が難しいし」
『宮近くんにとって、好きな人って何？』
“んー” と少し見上げている。
きっと今は、想っている人を思い浮かべているんだろう。
「放っておけなくて、守りたいと思える人かな」
考えて出た答え。
それは、私がいつも海斗に思っていることで。
でも海斗は幼馴染としてそう思うだけだから、絶対に違う。
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
