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手を開くと、海斗のお母さんが渡してきたのは家の鍵だった。
「これ、うちの鍵。申し訳ないんだけど、私今日この後仕事で帰りが遅くなる予定なの。だから、学校から帰ったら海斗のこと看病してくれないかな？」
『ごめんなさい。実は今、海斗と喧嘩してて』
「ふふっ、それは知ってる」
『え？』
「海斗が譫言で、Aちゃんにずっと謝ってるのよ。何があったのか分からないけど、うちの海斗がごめんね」
『いいえ』
謝るのは私の方かもしれない。
いくらしつこいと言われたとはいえ、本当にしつこく聞いてしまったのは私で。
海斗を不愉快にさせたのは私のせいだから。
なのに、海斗は昨日私の家まで来てくれて……
「だからもしAちゃんが良ければ、海斗のことお願いしたいな。いいかな？」
『わかりました』
「ありがとう。21時までには帰って来れるように私もお仕事頑張ってくるね」
『はい。じゃあ、私いってきます』
「はーい、いってらっしゃい」
帰ったら、ちゃんと話そう。
心配だから早く帰らなくきゃ。
海斗のこと沢山甘やかしてあげよう。
海斗がいないから、イヤホンをして音楽を聴きながら満員電車に揺られて20分。
最寄り駅に着いて高校まで歩いていると、いつも後ろからやってくるふたりが今日は前にいた。
そうだ、私今日遅かったんだった。
『ふたりともおはよう！』
小走りで追いついて、後ろから声をかけるとふたりは同時に振り向いた。
「A！おはよう！」
「おはよ、A」
なんだかご機嫌でニコニコの中村と、微笑む宮近くん。
『宮近くん、昨日はありがとう』
「え、何？昨日何かあったの？」
宮近くんよりも早く反応する中村は、目をまん丸にしている。
「Aに傘貸しただけだよ」
上手く話をかわす宮近くんは、本当に頭が切れる人。
『傘のこと、本当にごめんね。ジャージ返すの忘れてたから、洗濯して持ってきた。ありがとう』
「わざわざ洗ってくれたんだ。ありがとね」
返そうとトートバックに入れて持ってきたジャージを出して宮近くんに手渡すと、中村はなんだかムスッと拗ねたような顔をした。
「てか、クラは？あいつ日直？」
海斗がいないから寂しかったのかな？
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
