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『お母さん？今お友達と電話してるから、後で行くね』
声をかけても、返事がなくておかしい。
お母さんなら、私が何か言ったらいつも返事をしてくれるのに。
『宮近くん、私から電話したのに申し訳ないんだけど、お母さんの様子見てきてもいいかな？』
「ん、大丈夫。松倉と仲直り頑張って」
『ありがとう。また明日ね』
「おやすみ」
『おやすみなさい』
電話を切ってリビングまで行くと、お母さんはアイロンをかけていた。
『お母さん。さっきノックした？』
「それ、私じゃなくて海斗くんよ」
『海斗？』
「ビショ濡れになって来たからタオル貸そうと思ったんだけどね、大丈夫ですって言ってすぐAの部屋行ったのよ？でも、電話中だったから帰りますって」
『……なにそれ』
しつこいって言ったくせに。
宮近くんの傘、壊したのに。
帰っちゃったなら、私からなんて行けないよ。
またしつこいって言われるの、絶対嫌だから。
「海斗くん、酷く落ち込んだ顔だったけど、喧嘩でもしたの？」
『うん。そんな感じ』
「ちゃんと海斗くんのこと大事にしなよ？あんなに優しくてずっと仲良くしてくれる人なんて沢山いるわけじゃないんだから」
『分かってる。洗濯物取り出してくるね』
そうだよ。
あんなに優しくて、ずっと一緒にいてくれる人なんて海斗しかいない。
だからこそ、大事にしたいのに。
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次の日の朝、海斗の家の前でいくら待っても来ない。
先に行っちゃったのかもしれない。
私のことを避けているのかもしれない。
昨日、家に来たあと何の連絡もなかったし。
でも、このまま待っていても遅刻してしまう。
海斗のお母さんに話を聞くためにインターホンを押した。
「あ、Aちゃん。おはよう」
海斗のお母さんはお仕事に行くためか、ジャケットを着て髪を結びながら出てきた。
『おはようございます。海斗ってもう行っちゃいましたか？』
「あら、海斗から聞いてなかった？ごめんね。今日熱出ちゃって学校お休みするのよ」
申し訳なさそうに話す海斗のお母さんは、部屋の奥を心配そうに見た。
……私のせいだ。
もうあの時あんなに濡れていたのに、私が傘に入れてあげなかったから。
“あ、そうだ” と、海斗のお母さんは私の手に触れると、冷たい何かを握らせてきた。
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
