26 ページ26
.
『海斗のバカ』
折れた傘を開いて、ひとりで駅を出る。
宮近くんの傘が壊れちゃったことと、海斗からの言葉に傷ついて涙が出る。
“お前 しつこい！”
そんな事、今まで言われたことがなくて。
いつだって、ふたりで悩みを共有してきたつもりなのに。
そう思っていたのは、私だけだったのかな。
家に着いて、洗濯機に宮近くんから借りたジャージを入れる。
スタートボタンを押して、宮近くんに後で電話していいかメッセージを送った。
傘を壊しちゃったこと、文面じゃなくてちゃんと自分の口で謝りたくて。
“準備出来たらかけてきていいよ”
そうメッセージが来て、風邪をひいたら困るからと、先にシャワーを浴びることだけ連絡して急いでお風呂に入った。
お風呂から上がって、電話だから何も見えないのに身なりを整える。
宮近くんとは個人的に連絡を取ることはあまりなくて、電話に関しては初めて。
「もしもし」
電話越しに聞こえる声。
泣き止んだはずなのに、宮近くんの声を聞くとまた涙が溢れてくる。
『……宮近くん』
「どうした？」
『貸してくれた傘、壊しちゃった』
「あぁ、そんなこと？」
『折角貸してくれたのに』
「別にコンビニで買った傘だからいいよ、そんなの気にしなくて」
『ごめんなさい』
謝っていたら、もっと涙が出てきて止まらない。
「泣いてる理由、それだけじゃないんでしょ？」
泣いているなんて話していないのに、宮近くんにはバレていたみたい。
話、聞いてくれるのかな。
『……しつこいって、言われちゃった』
海斗があそこまで声を荒らげて怒っている姿なんて見たことがなかったから、思い出すと怖い気持ちもある。
『心配だったから声をかけただけなんだけど、何度も聞いちゃったからか、しつこいって』
宮近くんは私のゆっくり話す言葉を、遮らずに聞いてくれる。
『今まで一度もそんなこと言われたことなかったのに』
「んー、Aはいつも通り接してた？」
『うん』
「だとしたら、相手側に何かマイナスな感情を抱く出来事があって、余裕がなかったんじゃないかと俺は思うけどね」
『余裕？』
「うん。心の余裕ね」
たしかに、さっきの海斗はなんだか悲しそうで、それは雨にあたったからだと思っていたけれど、他に理由があったのかな？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 215人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
