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電車が駅について降りて改札を出ると、目の前にいたのは海斗だった。
それも、ビショ濡れになった姿で暗くなった空を見上げていた。
『海斗？』
「……A」
声をかけると、なんだか深刻そうな顔。
『もしかして、傘持ってきて無かったの？』
「うん」
海斗も部活終わりのようで、いつからここに居たのかは分からないけど可哀想。
『じゃあ、家まで一緒に帰ろ？』
宮近くんから借りた傘を海斗に見せると、何故か眉間に皺を寄せた。
「……その傘」
『ん？』
「その傘、ちゃかのでしょ」
『どうして知ってるの？』
私が手に持っているのは、ごく普通のビニール傘。
宮近くんの持ち物だとわかる特徴は何もないのに。
私が驚いていると、険しい顔をした海斗は私が着ていたジャージの名前の刺繍を指さした。
「ジャージだって、ちゃかのだろ」
『うん。貸してくれてたんだけど、返すの忘れちゃったの』
これを着て少し肌寒いくらいだから、貸してくれて良かった。
目の前にいる海斗は相変わらず、浮かない顔をしている。
「……俺用事あるから、一人で帰って」
いつもより少し低い声。
こんなにビショ濡れなのに何処か寄るなんて、絶対風邪ひいちゃう。
『今から用事って何？そこまで送るよ』
「いいって」
『でも、海斗濡れちゃうから……』
「いいって言ってんじゃん！」
そう言うと、傘を持っていた手を払われた。
「お前 しつこい！」
手から離れた傘が、地面に叩きつけられるように落ちる。
『海斗、なんで怒ってるの？私何か悪いことした？』
「もう何でもいいだろ、帰れよ」
小学生の時以来だ。
海斗が、私に向かってこんなに怒っているの。
でも、どうして急に？
『……わかった。先に帰るから、もし傘が必要になったら連絡してね？持っていくから』
返事をしない海斗を横目に、落としてしまった傘を拾う。
ビニール傘の白い持ち手にかすり傷のような跡が付いてしまって、開くと骨が一本折れていた。
『……宮近くんのなのに、壊しちゃった』
チラッと海斗を見ると、何故か私よりも悲しそうな顔。
その表情したいのは私なんだけど。
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
