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『宮近くん、ごめんなさい』
「そんな悲しそうな顔しないで。あとは俺が持って行くから」
そう言って階段を降りる宮近くんは、やっぱり私に呆れてる様子。
『私、これくらい持って行ける』
「じゃあこの散らばったノートたちは一体なんですか？」
『それは、拾えば大丈夫』
「また落としたら？」
『拾う』
「……」
私の回答は恐らく、宮近くんの納得のいくものでは無かったんだろう。
黙り込んだまま、階段に座っている私の目の前に立った。
『なに？』
「これで学んだでしょ？力仕事は黙って男に任せること」
中学校以上になると、それまで一緒に体育の授業を受けていたのに急に男女で分けられるようになったり、こういう力仕事は男の子にって、一体誰が決めたんだろう。
『でもノートくらいなら、』
「任せること。いい？」
だけど、どうしてか 宮近くんの言葉は、海斗の言葉と同じようにストレートで心に入ってくる。
海斗は幼馴染だから、言いたいことをすぐ理解できるし してくれる。
でも宮近くんの言葉は、海斗のような関係性でもないのに、まるでYesとしか言わせないような、そんな不思議な力がある。
『……はい』
「わかったなら良し」
頭をぽんぽんと撫でた後、階段を降りながらノートを拾っていく宮近くん。
……やっぱり、不思議な人。
私も拾おうとノートを持った時、手を滑らせて紙でスパッと切れてしまった指。
『痛っ』
ノートの名前を見ると"中村海人"の文字。
……中村、なにもしてないけど恨みそう。
「切っちゃった？」
『うん』
「これ俺が持っていくから、Aは絆創膏もらいに保健室行きな」
そんな大袈裟なこと言わなくてもいいのに。
『いい、最後までやる。せめて拾ってから……』
「良くない。行ってきて」
『嫌だ』
私が断ると、深いため息をつく。
「……仕方ないな」
宮近くんは拾って重ねていたノートを踊り場の隅に置いたまま、私の腕を引っ張って階段を降りる。
『宮近くん、別に紙で切ったくらいでそんな……』
「ダメ。俺が松倉に怒られるから」
『まちゅ？』
「うん」
急に出てきた海斗の名前。
『なんでまちゅが怒るの？』
「なんででしょうね」
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
