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「えーっと」
私と一番離れた席の男の子が話しだす。
「中村海人です」
聞き覚えのある声と名前。
「大学3年です。趣味はゲームだけど、身体を動かすのも好きかな」
……間違いない、あの中村だ。
ゆっくりと顔を上げると、パチッと目が合う。
「よろしくお願いします」
私に向けて、笑顔で言ってくる。
女の子ふたりが"海人くん、当たりじゃない？"なんてコソコソと話しているのが聞こえてくる。
彼は、高校の頃の同級生。
私が高校で仲が良かった男の子の1人だった。
幼馴染のカイトと、同じクラスになった2人目のカイトと、3人目のカイトこと中村海人
つまり、3人のカイトと私の計4人でいつも行動していた。
「Aの番だよ」
『……あ』
高校の頃を思い出していたら、もう自己紹介が私の番になっていた。
『Aです。大学3年生で、趣味はカフェ巡りです』
当たり障りのないことを言って、周りの人達に酔いが回るのを待つ。
"Aちゃんは？"なんて、急に話を振られたら、ボーっとしていたから何の話か分からなくてトイレに逃げる。
トイレは男女それぞれ1箇所あるのに混んでいて、順番待ちをしていると
「A」
後ろから聞こえた声。
『……中村』
「久しぶり。こんなところで会うと思わなかった」
『私も』
金に近いような茶髪のストレートヘア。
高校を卒業してから会ったのは、いつも一緒にいた4人組で集まれた日の数回だけだから、少し大人っぽくなった中村は見慣れない気がした。
「お前、アイツと別れたの？」
壁によりかかって、ポケットから取り出したスマホをだるそうにいじる。
その癖、痛いところを気にするから、こっちばかり緊張する。
『……ううん』
「じゃあなんでこんなとこいんだよ」
『ゼミの飲み会って騙された』
「馬鹿だな」
男女同時にトイレがあいて、同じタイミングで入った。
出た時にはもう中村は席についていて、なんだか私がいない間に席替えをしたみたい。
男女が交互になるように座っていて、すごく座りたくない。
だって、私が座るのは男女男の並びの方。
中村は女男女の真ん中、つまり私の向かい。
きっとかっこいいから、女の子ふたりが中村を真ん中の席に来るように選んだんだろう。
……最悪。
あの女の子、私のこと助けてくれるって言ったくせに。
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作者名：愛生
| 作成日時：2023年12月4日 1時
