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「か、たな……かたな、私の、日輪刀、は」


震える唇からやっと紡がれた掠れたその言葉に、降谷は弾かれたように寝室を出て、リビングへと向かった。

リビングには手洗いし、室内干ししていた少女が着ていた学ランのような軍服と、羽織りがあった。そしてソファーには、彼女が帯刀していた刀。

降谷は刀を取り、すぐに寝室へと戻った。

顔を両手で覆うAの目の前にそっと差し出せば、瞬時に取られる。

Aは縋りつくように日輪刀を抱き締める。


「あぁ……そうだ、これこそが、私の、唯一の……っ」



三人はハッと息を呑んだ。


艶やかな漆黒の長い髪がはらりと垂れ落ち、黒曜石のような瞳からはぽろぽろと涙が溢れている。白磁のような肌、薄紅に色づく唇。憂いながらも慈しむように刀を見つめては伏せられる長い睫毛。
紺色の無地の浴衣、日本刀はもちろんだが、A自身が纏っている澄んだ…清らかなものが、まるで一国の姫君のような神聖さを感じさせられる。彼女には何人たりとも触れることさえ赦されない、いや、目に映すことすら憚れるほど。

だが、目が離せない。

浴衣からのぞく腕や脚には無数の刀傷があるものの、それらすべてがAの魅力と成り果てている。少女特有の無垢さと純粋さと、大人の女性へと移りゆく時の妙な色香にひどく心が揺さぶられる。
A自身の心算はともかく、彼女の息遣いや姿を見るだけで、胸を掻き毟りたくなるほどの熱が身体に迸る。其れほどまでに扇情的な姿。


生まれて初めて見る女性の姿に、三人は息をすることさえも忘れ、立ち尽くすしかできなかった。



***



泣き疲れたように眠るA。
固く閉じられた目蓋は赤く染まり、目尻からはまだ涙が溢れている。


その涙を指で掬い取る降谷。

思い出すのは、Aを見つけた昨夜の出来事だった。



***



四徹目であり、二週間ぶりの帰宅。
心身ともに疲れ果ててたが、明日から一週間の休暇だと思うと眠気が吹き飛んだ。

意気揚々とエレベーターから降り、自宅の扉が見えたところで足が止まった。

扉にもたれ掛かるように座り込んでいる、見知らぬ少女。



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漂白剤 - 面白い・・・・・・主人公可愛い・・・・続きが楽しみ!!! (2020年9月20日 13時) (レス) id: 836661e0c9 (このIDを非表示/違反報告)
癒秘松(プロフ) - 面白いです頑張ってください! (2020年6月22日 14時) (レス) id: ac573f2cb6 (このIDを非表示/違反報告)
斑鳩(プロフ) - あれ?コメント出来るようになってる…!夢主さんと降谷達のジェネレーションギャップが良いですね!今後も頑張ってください! (2020年5月20日 13時) (レス) id: e4a4760cd6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱすてるくれよん - すごく面白くて読むのがとても楽しいです!!私はコナンも鬼滅も好きです(赤井さんと無一郎が特に)更新頑張ってください! (2020年5月19日 22時) (レス) id: 79fdb8f695 (このIDを非表示/違反報告)
花璋(プロフ) - なんかもう本当に大日本帝国であった頃の文化や価値観を文章として巧みに表現なされていて、読んでいて自然と居住まいを正してしまうような、素晴らしい文章力にコメントが上手くまとまらない程感動しました!類を見ない異色の合わせに今後の展開がとても楽しみです! (2020年5月3日 21時) (レス) id: 16d4e71997 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:水梨リンゴ | 作成日時:2020年4月28日 18時

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