今世紀最小の愛(S青) ページ5
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営業部の渡辺さんは、モテる。とんでもなく、モテる。
「そしてそんな男に愛されている今世紀最大の幸せ者が、私、本田A。」
「ちょっと、勝手に変なナレーションつけないでください。」
あ？事実だろ、と割と本気のトーンで言ってくるものだからタチが悪い。あと口も悪い。
今のところ、こういった絡みは給湯室に二人の時しかしてこないが、
からかうにしても、他の女性社員の目が怖いのでそろそろやめてほしい。
「後輩いじめてそんなに楽しいですか？」
「それは楽しいけど本気なんだって。」
「全然信用できません。」
「ていうか俺のどこがだめなの？
悪いとこ一つもなくない？」
「今、まさに、そういうとこです。
私無駄に自信ある人苦手なんですよね。」
「無駄にじゃなくて、相応の自信なんだけど。」
ここまでくると流石すぎる。
こうなったら別の方向で反撃してみる。
「それに私、向井くんみたいな温厚な人がタイプなんで。」
「･････････。」
お、意外にも反撃成功。
自分が温厚ではないことは分かっていたみたいだ。
よしよし、これで明日から安寧な日々を送れるなと安心していると、
無言のままこちらに歩み寄ってくる渡辺さん。
怖すぎる。
反射的に後ろに下がる。
そのままじわりじわりと詰められる距離。
追い詰められた先は扉とは反対側で、逃げ場はない。
そして焦る私の両手を自分の両手で包み込み、
向けられたことのないよそ行きの笑顔で、
「本田Aさん、好きです。」
「･･･ふふ。」
その一連の流れが、私の知る渡辺さんとあまりにもかけ離れていたので、耐えきれず吹き出してしまった。
「･･････笑うなよ。」
「だって急すぎて。
渡辺さんの温厚の定義もよく分かりませんし。」
温厚ってどうやればいいんだよ、と赤くなった顔を隠すように項垂れる渡辺さんを見ていたら、
単純な私は彼のことがもっと知りたくなってしまった。
さて、どうしたものか。
まずは彼の言う本気とやらを少しだけ信じてみることにしよう。
傾き始めた気持ちにはまだ気づかないふりをして。
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作者名：うにこ | 作成日時：2021年1月17日 23時
