第25話「突然の話」 ページ26
あの幸せな七夕祭りの後、私は夏休みに入った。例年と特に変わらない休みではあったが、プールに行ったりサマースクールに通ったりと中々充実していた。
そんな夏休みも終盤が近づいてきた、ある日のこと。
「え？」
私はたった今聞いた話の内容を理解できず、呆けた声を出してしまった。
「だからね、パパもママも、1週間後からしばらく海外で仕事をすることになったの。」
母は先程の言葉を繰り返す。
要約すると、父親は海外への事業展開をするために視察&向こうに住んでいる知り合いのお店との合同プロジェクトを進めに行くらしい。
そして母親は、病院の医師たち向けの海外研修に行くのだそうだ。
突然そんな話をされて私は混乱する。そもそも両親がいなければ、飼い猫のありすがいるとはいえ、私は家にまるっきり1人になってしまう。
「え、ちょ、ちょっと待って！私、家に1人ってこと！？」
「いや、それは心配だから、おばあちゃんに来てもらうことになってるんだ。」
父の言う「おばあちゃん」とは父方の祖母で、普段は遠くに住んでいるのであまり会わないのだ。
「ごめんね、紫乃にはもうちょっと早く言おうと思ってたのに、準備が忙しくて……💦」
確かにここ最近、両親は非常に多忙で深夜に帰ってくることが多かった。だからって突然すぎるだろう…私はそう言いたかったが、今更私に止めることなんて出来ない。
「ばあちゃんもいてくれるし、お前ももう大きいから大丈夫だろう。留守番、頼めるか？？」
父は私に問いかける。いや、だから急なんだってば…と思ったけれども、両親の仕事が忙しいのは元からだし、久しぶりにおばあちゃんにも会える。…それに、しばらくは怒られないで済むかもしれない。
こう見えて切り替えの早い私は、現状を早くも受け入れていた。
「う、うん、もちろん。おばあちゃんもいるなら大丈夫だよ。2人こそ、気をつけて行ってきてね。」
私は笑顔でそう返す。2人の表情もぱっと明るくなった。
「！流石だな紫乃、頼りになるな〜！」
「ありがとう紫乃。ママたちいないけどよろしくね？」
実はつい先日も怒られたばかりだが、そんな事は微塵も感じさせないような両親の顔。…2人が海外に行ったら、しばらく怒られることもないけれど、こんな顔も見ることが出来なくなる。
そう思うと、何だか寂しかった。
「…うん、任せて！」
けれど、私は顔を上げてにこっと笑って見せた。
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作者名：みかんの缶詰め | 作成日時：2023年5月18日 19時
