第13話「彼の言葉」 ページ14
「ひい、はぁ…ふぅ………」
借り物競争のあんなに短い距離でも、私にとってはフルマラソン並みの長さに感じられた。体力がないのですぐに息切れし、ぜーはーと苦しそうな呼吸を繰り返す。
「おい、大丈夫か…？」
そんな私の様子を見た副会長が、心配そうに声をかけてくる。
「う、うん…大、丈夫………」
明らかに大丈夫じゃなさそうに返事をするが、私は今それどころではなかった。
(副会長と、手ぇ繋いじゃった…///)
異性と手を繋ぐ機会など、小学校の学芸会以来である。しかも、気になってる人とだなんて…
けれど、私の心の中にはその喜びと共に、副会長への申し訳なさが湧いてきていた。
変なフォームで走る私と並走させてしまった挙句、それを見た周りの生徒から笑われたのだ。あの笑いは私に向けられたものとはいえ、一緒に走っている副会長からしたら恥ずかしい以外の何でもなかっただろう。
「あ、あの…ごめんね、副会長…私のせいで、笑われちゃって…恥ずかしかったよね…」
私は副会長の顔をまともに見れず、目線を逸らしながらそう声をかけた。
「…そんなことはない。」
彼は私に向かってそう言った。
「………え…？」
「お前はあの時わざとそう走ったのか？違うだろう？」
私と対照的に、彼は私の目をじっと見つめて語りかける。
「う、うん…あれでも、一生懸命だったから……」
「…だからだ。お前は一生懸命走ったのだから、恥ずかしがる必要なんてない。私に謝る必要もない。」
それを聞いた瞬間、私の心臓はドクンと大きな音を立てた。
かつて、こんな風に私に優しくしてくれた人はいただろうか。それも、私の目をしっかり見てそっと語りかけてくれた人など…
「…あり、がとう…副会長………」
私は絞り出すような声で言った。
「礼には及ばん。では、私は失礼する。」
副会長はそう言うと、生徒会役員のテントへと走っていった。
「…っ…………//」
私は、そんな彼の背中をじっと見つめていた。
未だに大きな音を立てている心臓を押さえながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みかんの缶詰め | 作成日時：2023年5月18日 19時
