48. ページ48
「言ったでしょ、私は君を正しく導きたいの。自分の生徒を前に、逃げるような教師にも大人にもなりたくないだけ」
「じゃあ、一個だけ聞いてくれへんか」
なにを、と言う前にコネシマが一歩、私に向かって歩を進めた。
俄然近くなった私たちの距離にも、私は気丈にコネシマを見上げた。
もはや、睨め上げるといっても過言ではないだろう私の視線を受けてなお愉快そうに笑うコネシマは、楽しそうに私に言う。
「次の期末テスト、全教科平均点越えたら一つお願い事聞いてや」
“「なぁ、この後のリレー、俺が一位になったら一つお願い事聞いてや」”
笑っているのに、真剣な双眸に私は思わず体育祭でのことを思い出した。
あの時だってそんなことを言うなと突っ返したのに、目の前の少年はまた同じことを繰り返している。
あの時と同じように諭そうと開いた口から、咄嗟に言葉が出なかった。
一体何が、この目の前の少年が私に対してここまでの執着を抱かせるのだろうか。
確かに見た目は人並みに気を付けてはいる。
だがあくまで社会人としてのマナーというだけであり、だからこそ常にスーツを着て必要以上に着飾ることはなかった。
問題児と言われるコネシマにも他の生徒たちと同じく平等に接したのは、コネシマが私のクラスの生徒であり、根が悪い子ではないということを知っているからだ。
誰よりも特別に接したとか、私から好意を示したとか、そんなことは一度もない。
それでも、この無視できないコネシマからの感情を、私は持て余しているのだ。
それは、別荘という開放感からか、挫けず同じことを繰り返すコネシマに何かを動かされたのかは、分からない。
ただ、私は思ったままを言葉に乗せていた。
「いいよ」
コネシマにとっても想定外だったのだろう、珍しく大きく見開かれた空色が心情を物語っていた。
いつもは細くなる双眸に、つい綺麗な色だなと呑気に思ってしまう。
「ただし、条件は変えるよ。全教科70点以上、取れたら私にできる範囲で聞いてあげる」
そう言えば、コネシマは一瞬考えこむように目を細めたが、これは私にとっても譲れない。
「君のお願いを聞いてあげるんだから、それくらい頑張ってくれたら私も嬉しいよ」
例え動機が多少不純でも、勉強に意欲的になるのは教師としても悪いこととは思わない。
私が出した条件に、コネシマは少し沈黙した後「わかった」と小さく頷いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 451人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
舞太郎 - 禁断の恋、､､背徳感があるねーｸﾞﾍﾍ(きも)更新頑張ってください！楽しみにしておりまーすんご (2021年10月8日 23時) (
レス) @page42 id: 6f46ea7e84 (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - 好き… (2021年7月17日 16時) (レス) id: 5459160ee1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：乃鴉 | 作成日時：2021年4月8日 21時
