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『早く大人になりたくて仕方なかった』
「…なんで?」
『子ども、つまんないじゃん』
あの頃、付き合ってすぐの頃、
そんな話をしたこともあったかもしれない
父親がいわゆる転勤族だったきょも
それに毎回着いていって、振り回されて疲れるって
だけど多分今回の引越しが最後らしいから
ようやく落ち着いて生活できるかもって
…まあ、そんな話をして2ヶ月もしないうちに
またきょもは何も言わずに引っ越してしまったんだけど
『けどいざ大人になるとそれもしんどい』
「今、ってこと?」
『うん』
結局人はないものねだりってこと
私は…
逆にあの頃は子どものままが良かったけど、
今は今のままでいいって
手をゆっくり下ろしたきょも
“大人になっても星遠いまんまだし”
そう寂しそうに呟くのが悔しくて、
考えるより先に身体が動いていた
『…は、なにしてんの』
そう言われるのも無理はない
だって急に立ち上がって川に手を突っ込んでいるんだもん
浴衣の袖が濡れるのも気にせずに水を何度も掴む
「ほら、見てよ。今私星掴めてる」
『……』
「星鏡、掴めてる。あの頃よりも星、近くなってる」
あの時から今まで、
きょもが何を考えて生きてきたのかわかんないけど
遠い空を見上げなくてもすぐそこに星は落ちてること
星鏡は私たちの手の届く場所にあるってこと
…それがきっと私たちを繋いでくれていたから
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作者名:ダイア | 作成日時:2022年10月19日 22時