胡蝶の夢-2- (ページ17)

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「…我儘、言ってごめんね」

辺りが明るくなり始めた頃、
海から離れて私の家へと歩きはじめる

つい数時間前までのようにブンブン鳴らすんじゃなくて、
森本くんはバイクを押して私はその隣を歩く

どうってないことなのに

なんだか夢から醒めたような気分になる

『なぁに我儘って』

朝の冷えた空気のなか、鼻をすする森本くんが小さく笑う

少しだけ赤くなった鼻と頬は2人で過ごした時間の経過を表しているようで

「ううん、なんでもない」

『あー、お腹減ったな』

「森本くんは朝どっち派？」

『えーどっちも好き！今は飯の気分！』

「でも森本くんご飯の方が似合うよ」

『それ樹にもすげえ言われる、おむすび似合うって』

「んふ、確かに」

だけど、穏やかな朝だった

夜のことが夢だったかのような、幻だったかと錯覚するほど
清々しい朝で気持ちが良かった

こんなくだらない会話を誰かとできることがすごく幸せで

森本くんがいれば私はひとりじゃないんだって強く思える時間だった

家が近づけば近づくほど、いつも以上に口が止まらなくて

俯いてしまいそうになる顔をあげるのに必死だった

『…ずっと、俺が傍にいるからね』

「うん、有難う」

『数時間後…くらいか、また学校で』

「うん、また学校でね」

ビューンと小さくなる背中を静かに見つめていれば
なぜか視界がぼやけていく

…大丈夫、ひとりじゃない

深呼吸して体の向きを変えると私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた

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