胡蝶の夢-2- (ページ30)

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「もういいよ？ここまでで」

『俺が良くない、ちゃんと部屋に入るまで見届けさせて』

そんな願いは叶うわけもなく、朝がきてしまった

秋の冷たい風が吹く中では雨に濡らされた服は乾くわけもなく

森本くんのお家に寄って服を貸してもらった

想像よりも遥かに大きかった森本くんのトレーナー
ズボンのサイズなんて合うわけもなく、結局それ一枚

所謂彼シャツ状態に悶える森本くんと歩いていればすぐ家の前に

だけど繋いだ手はなかなか離すことができない

今、この手を離したらもう二度と会えないんじゃないかって思うから

そう思っているのはきっと私だけではない

繋がれた手を揺らしながら静かに俯く彼になんて言葉を掛けるべきなんだろう

『…あ』

エントランスが開く音がする

反射的に視線をそっちに移すと目に入ったのは叔母の姿

両手に大きなごみ袋を持っている

…確か今日の早朝に家にやって来るって言ってたっけ

「…叔母さん」

『夜遊びしてたの？』

『あ、いや、俺が勝手に、』

『Aが今…お付き合いでもしてる子？』

『はい…！森本って言います、えっと、その、』

『送ってくれて有難うね、森本くん』

叔母の視線が私に移り、小さく微笑む

“入りなさい”って目で言われているんだってわかった

『…あ！ねえ、A、！』

「ん？」

『また、ね。…あ、風邪引かないようにすぐお風呂！ね！』

「…うん、森本くんも」

森本くんがいつまでも私のことを見ているのはわかっていた

だけど、無理だった

限界だった

一度瞬きをすれば零れてしまう涙

エントランスを抜けてエレベーター前の壁にもたれかかって
声を押し殺して泣いた

…もう、きっと

森本くんに会うことはできない

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