#心音 ページ35
.
.
「ぁ…」
「きっと無意識だったんだろうね。自分でも気付いてなかったみたいだし」
私は弁解する気力も無く、黙って彼の話に耳を傾ける。
「ねぇ、アイツらに何を言われたの？別れなきゃいけないくらい酷いことを言われたの？」
「…ちがう」
「僕は別れたこと、……理解はしたけど納得はしてないよ」
無一郎はそこで言葉を切り、私の瞳を覗き込んだ。
まるで逃がさないとでも言ってるかのように。
「Aは、まだ僕のこと好き？」
ふと思い浮かんだのは、杏香の顔。
この返答次第で、今の関係は確実に崩れてしまう。
だけど、私にはもうそんなことを案じる力は残っていなかった。
……ごめんね。
もう、嘘を吐くのは限界なんだ。
「うん、大好きだよ…っ…」
その言葉を口にした瞬間、私の心を締め付けていた縄が切れた音がした。
溢れ出るこの想いに呼応して、涙が頬を伝っていく。
辛くても、
苦しくても、
哀しくても、
ずっと自分を殺して我慢してきた。
泣くな、泣いたら私は負けてしまう。
人の幸せより自分の幸せを優先してしまう。
そんな思いで、必死に弱音を吐かまいと抗ってきたというのに。
「……僕は、愛してる」
人の優しさに触れた。
その度に、親友に酷いことをしている自分が嫌になった。
……いい、のかな？
「いいんだよ」
「！」
「Aは皆が不幸になるって言ったけど、その中にAは入ってたの？」
「それは、」
言い切れずに口を噤むと、彼は私の手を握った。
「独りで抱え込むのも、自分を殺すのも、全部必要ない。そんなことやんなくていい」
「な、んで…？」
彼は答えた。
「だって、僕がいるから」
今まで見てきた中で、一番の笑顔を浮かべて。
流れ落ちる涙を止められない。
そんな私を見て、彼は大きく腕を広げた。
「っ、ばか、」
「これが理由じゃダメ？」
首を振って否定し、私は彼の腕の中へと飛び込んだ。
無一郎が私の背中へと手を回し、私は彼の胸で幼子に戻ったかのように号泣する。
「よく頑張ったね」
覚えているのは、彼の声と心音だけ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 260人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Runa - 紅乱さん» 一気読みだなんて！めちゃくちゃ嬉しいです！杏香をそのように言ってもらえありがとうございます！！ (2020年1月18日 11時) (
レス) id: e03723cf47 (このIDを非表示/違反報告)
Runa - 永久さん» 最後までお読み頂きありがとうございます！！貴方様のコメントで泣きます！！！！！ (2020年1月18日 11時) (レス) id: e03723cf47 (このIDを非表示/違反報告)
永久(プロフ) - 完結おめでとうございます！！もう本当に！！泣きます！！！！！ (2020年1月17日 17時) (レス) id: 75d8805815 (このIDを非表示/違反報告)
紅乱 - 今日見つけて一気読みしてしまいました！杏香ちゃん良い子すぎて泣ける…… (2020年1月16日 21時) (レス) id: 649e22ca45 (このIDを非表示/違反報告)
Runa - 雫さん» それなあああです！！こんな親友私もめちゃ憧れます！ (2020年1月16日 18時) (レス) id: e03723cf47 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Runa | 作成日時：2019年12月5日 23時
