◇3 ページ25
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれは、数年前。
出版社の担当さんとのスケジュール調整を終えて、修ちゃんの部屋に戻った、とある日。
「せんせー、このこ、だれ？」
柔らかい笑顔と室内に漂う生臭さ。
私の方を向いているのは彼が手に持った……血の付いた出刃包丁。
瞬時にその人が誰なのかを理解して、いろんな意味での叫び声を上げなかった過去の自分を褒めてやりたい。
「な、な、な……」
「大野くん、包丁向けちゃダメ」
「あ、ごめんね？」
大野さんはキッチンで魚を捌いてる途中だったみたいで、ふわっと微笑むと自分の手元に視線を戻して集中してしまって。
私は私で、目の前にある現状が現実なのかを飲み込めずにいたお陰で、すっかり挨拶するタイミングを逃してしまっていた。
「A、お疲れ様」
「修ちゃん、なんで……」
「あぁ、釣り仲間なんだよね」
新妻よろしくエプロンで手を拭きながら私の方に近寄ってきた修ちゃんは、まるで乙女のようにデレデレしまくっていて……なんだそれ、とツッコミそうになるのを抑えつつ。
なんで今まで教えてくれなかったんだ！と叱りたい気持ちと、修ちゃんよくやった！と褒めてやりたい気持ちが半分ずつせめぎ合っていて……結果、修ちゃんには何も言わないことにしたのだけれど。
「Aちゃんって言うんか」
「あっ、あのっ、ご挨拶が遅れまして……坂井のアシスタントを務めておりますAです、はじめまして」
「んふふっ、驚いたべ」
「……そりゃあ、もう」
ＴＶ画面の向こうにいた人が、実在していて目の前にいるというよく分からない状況にもかかわらず、私が落ち着いて話せたのはきっと大野さんの纏っている柔らかい雰囲気のお陰で。
その両手の上に乗せられている皿に視線を落とせば、綺麗に並んだ刺身。
それにつられるように私のお腹が「くぅ」と小さい音を鳴らして……ハッとして大野さんを見ても、あとの祭り……。
きょとんとしていた表情から一瞬にして「ぶはっ！」っと破顔して、口元を手の甲で隠しながら小刻みに肩を震わせていた。
「す、すみません……」
「くくくっ……そんな美味そう？」
「そりゃ、もう……」
自覚できる位に顔が熱い。
そんな私を面白がるように見ている大野さんに気付いて、更に顔の温度が上がっていく。
あぁ……恥ずかしい……。
だって……デビューから応援していた人に自分の腹の虫を聞かれるなんて……。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1015人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒衣(プロフ) - のりさん» コチラにもいらっしゃいませ〜！秘密のデートですよ…車内でふたりっきりですよ…ズビズビ翔さんの鼻をチーン！してあげられますよ…最後には命令されちゃうんですよ…うふふ(こら) 顔面の間近に翔さんがいると思うと…昇天するしかないっす(笑) (2018年1月27日 2時) (
レス) id: 9cf8dc8670 (このIDを非表示/違反報告)
黒衣(プロフ) - ちこさん» こんばんは！いらっしゃいませ〜！翔さんのエピソード気に入って頂けて嬉しいです♪ そりゃリハビリも頑張っちゃいますよね、もう一緒にいられるなら何でもいいという願望です(笑) (2018年1月27日 2時) (レス) id: 9cf8dc8670 (このIDを非表示/違反報告)
黒衣(プロフ) - あいさん» (続き)そして、今頃とかお気になさらず！読んで下さったってだけで感激です♪ むしろ、完結しきれていない作品も多いので申し訳なく思ったりもしてます(汗) あいさんゲームされないんですね！なら猶更ゲーム話でニノちゃんと盛り上がってみたいですよね♪ (2018年1月27日 2時) (レス) id: 9cf8dc8670 (このIDを非表示/違反報告)
黒衣(プロフ) - あいさん» いえいえ！こちらこそ！読んで下さってありがとうです！「ハウス！」は相葉くんなら言ってくれそうだよな〜とか思いつつ、私もニヤニヤしながらカタカタしておりました(笑) そして翔さんはきっとリハビリっていう後付けの理由が欲しかったに違いない！(願望) (2018年1月27日 2時) (レス) id: 9cf8dc8670 (このIDを非表示/違反報告)
のり(プロフ) - そしてこちら。デートなんて烏滸がましい(泣)ちゅー！？いや、ムリムリ。彼の好きなスイーツをぱくぱく食べてる姿だけで私は十分。あ、でも。リハビリは付き合ってもらいたいです笑 (2018年1月25日 21時) (レス) id: 18c83a81d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
