「大きな代償」1 ページ39
…もう二度と、失うもんか…
声が、聞こえる……。
私は、この声を知っている……。
重い瞼を震わせて、私はそっと瞬きを繰り返した。
呆然とした意識の中、視界に映りこんだのは……黒い手袋をした私の左手を握る、幼い顔の女の子。
視線が合うと、彼女は私にフワリと笑ってから、口を開く。
…大丈夫、詠子は死なないよ…
身体を巡る両面宿儺の呪力を搔き消すように、手袋の下に隠れている指輪が別の呪力を宿して私の指へと絡みつく。
左手から肩へ、首へ、全身へ……冷え切っていた身体があたたかい呪力で覆われて、いつの間にかある程度の傷は回復していった。
今、私は、何をしていたんやっけ……?
ぼんやりと見える目の前の状況から、拾えるだけの情報を得る。
伏黒恵が……虎杖悠仁と、否、両面宿儺と対峙していて、それで……。
【いい、いいぞ。命を燃やすのはこれからだったというわけだ。魅せてみろ!! 伏黒恵!!】
彼が“術式”の発動を予兆させる構えを取った直後、両面宿儺の強い声が響き渡った。
その言葉を引き金にして、彼が纏う呪力が変化する。
「布瑠部由良由良 「八握――――」」
『ん、雨のニオイがする……』
「! 神城先輩……、っ?」
伏黒恵が“術式”を発動する前に、私は彼の意識を逸らして発動を止める。
止めた理由は幾つかある……だけど、その大きな理由として“全滅を免れるため”が最上位にあった。
虎杖悠仁は心臓を失ってから時間が経ちすぎた……いくら頑丈でタフだと言っても所詮は人間。
両面宿儺のように反転術式を使えるわけでもないし、恐らくもうじき限界が来るはずだ。
私自身も、自分の心臓を貫いている刀を抜けば大量失血は免れない……正直なところ、反転術式を使えるだけの呪力も体力も気力も残っていないのが現状である。
この絶望的な状況下、負傷しているとしても生き残る可能性があるのは……伏黒恵しか居ない。
私は自分に突き刺さったままの刀に意識を集中して、虎杖悠仁の“気配”を探る……。
『虎杖くん、聞こえてんでしょ? キミはいつまで両面宿儺に振り回されてんのさ。あんまし、恵くんを悲しませちゃいかんよ』
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作者名:神屋之槭樹 | 作成日時:2023年4月16日 18時