究極の選択 ページ29
「初めまして乙骨君、私は夏油傑」
「えっ、あっ、はじめまして」
「そして君が……神城詠子だね。会えてよかったよ、ずっと君を捜していたんだ」
『!!』
(((速い!!!)))
文字通りの“一瞬”で、男は私の近くに立っていた乙骨くんの手を取っていた。
私の本能が“面倒臭い”を超越した存在を回避する為に身を引こうと動く……しかし、当然、相手の方が私の上に立っている人間である。
あっという間に、私の意識は目の前で貼り付けたように嗤う男……夏油傑の手中に囚われていた。
「あぁ、急にごめんね。君が育った施設の人に聞いて、少し気になって……捜していたんだ」
『…………』
「とても“良い人”だね。君のこと、たくさん教えてもらったよ。幼い頃から呪いが視えているにもかかわらず、周りに合わせて“視えないフリ”をしていたこと……もっと早くに知っていれば、ツラい思いをさせずに済んだというのに」
『…………』
夏油サンと、目が合う。
あぁ……この人の眼は非常によろしくない、込み上げる気持ち悪さに背中がぞわぞわと疼く……。
毎日を演じてきた私には分かる、この人も“同じタイプの人間”だという事が。
「もう“演じる必要”は無いんだよ、すべて君が正しいのだから」
『…………』
「さあ、私と一緒に行こう。君の住むべき世界は“
心臓が早鐘を打つ、循環する血が、熱い……まるで何かに共鳴する様に、身体が熱を持ち始めた。
激昂、憎悪、恋情……否、そんなものじゃない。
目の前に差し出された手のひらは、純粋に私の意識を誘っている……選択を間違えるな、この先にあるのはきっと“生”か“死”かの二択だ。
呼吸が上手くできない、何の音も聞こえない……ただ目の前で、
ただ周りに合わせて“普通”を演じていただけなのに、私は一体どこで選択を誤ってしまったのだろう……。
私は、ただ……“普通”に生きてきた、だけなのに……、…………。
「あの、
結論に辿り着いた時、全身から力が抜ける感覚と同時……私の頭上から降ってきた声に意識が覚醒する。
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作者名:神屋之槭樹 | 作成日時:2023年2月20日 0時