寒中水泳その後2 ページ2
機関員たちは宿舎に戻った。
冷えた体も限界なので、一目散に秋山はシャワーを浴びに行った。
温かいシャワーを浴びると、心まで満ち足りた気持ちになった。
落ち着いたら、腹が減っている事を思い出した。
(早く食堂に行かないと。彼らの事だから、直ぐに食べつくされる。)
急いで着替え、生乾きの髪を結んだ。
心も体もほかほかのまま、食堂に行くと、他の機関員たちは既に食堂に集まっていた。
甘「おっ、来たか秋山。今始めた所だ。」
秋「良かった。もう食べられてたらどうしようかと思った。」
秋山は安心した様子で席についた。
テーブルの中央には鍋が置いてあり、それを中心としてぐるりと周囲を機関員たちが囲っている。
鍋の脇には野菜や肉等の食材が置いてある。
おそらく、佐久間が買ってきてくれたのだろう。
鍋奉行は福本。
いつもの割烹着スタイルで甲斐甲斐しく動いている。
既に白滝や椎茸や人参が鍋の中に投入されている。
小「こっちの野菜は入れないのか？」
福「いや、白菜やネギは最後でいい。秋山、そこの肉入れてくれないか？」
福本がトレーに乗っている薄桃色の肉を指さした。
秋「分かった。・・・おっ、鶏肉だ。」
福「ああ、上の鳩舎から数羽ばかり失敬した。」
全員「は！？」
その瞬間、食堂の空気が一気に凍りついた。
田「ふ、福本…！？」
田崎が青ざめた顔をしている。
福「・・・というのは冗談で、佐久間さんが買ってきてくれた鶏肉だ。」
波「福本が言うと冗談に聞こえないから怖いんだよ！」
波多野が叫んだ。
実「確かに、本当に何羽か殺ってそうですね。」
秋「そう言う実井の方が殺ってるイメージあるけど・・・。」
実「おや、心外ですね。」
実井は屈託の無い笑みのままだ。
最後にネギ、春菊、豆腐を入れて蓋をした。
待つこと数分後。
福「できたぞ。」
福本が鍋の蓋を開けた。
湯気と共に立ち上る、鼻腔をくすぐる昆布出汁の香り。
半透明の汁の中には野菜や肉がぐつぐつと煮えている。
もちろん、福本が採ったアサリもちゃんと入っている。
一同、ゴクリと生唾を飲んだ。
鍋奉行である福本が音頭を取る。
福「諸君、寒中水泳お疲れ様でした。では・・・」
全員「頂きます！」
全員で合掌した。
一斉に箸を持った。
皆、空腹過ぎて限界だった。
(負けられない戦いがここにある！)
機関員たちは互いに火花を散らした。
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作者名：有馬 | 作成日時：2017年1月7日 22時
