春夜の約束3 ページ48
結局、佐久間が大東亜文化協會まで秋山を送ってくれることになった。
暗い街に二人の足音が響く。
「…満州に行くことになった。」
不意に佐久間が呟いた。
「満州に…？」
「ああ、ゴードンの件で色々あってな。その後処理に忙殺されて遅くまで参謀本部に残っていたという訳だが、まあ、その話はいいか。…とにかく、上司の不興を買って満州行きだ。」
「それは、お気の毒に…。」
「おそらく、前線行きだろう。」
「貴方はそれでいいんですか？」
「軍人である以上、どのみち戦場に行く運命だ。俺の役割は戦場で戦い、国を守ることだ。」
「それは、自分自身が考えたことですか？」
「無論だ。…今までだったら、国の為に死ぬことこそが最高の誉だと思っていた。…しかし、考えが変わった。俺は、国の為に命を捨てる覚悟だが、駒として使い捨てられるのはごめんだ。これが、俺の考えだ。」
「そうですか…。それが、貴方自身で考えた答えなら、言うことはありません。」
「お前たちに出会って、良くも悪くも考えが変わってしまった。今まで疑わず信じ込んでいたことが足元から崩れ落ちてしまったような心地だ。」
「貴方はあの事件の真実を見抜くことができた。しかし、真実を知ることで信じていたものを失った…。軍人の貴方にとっては残酷なことなのかもしれませんね。」
「お前は、いったい何を信じて生きている？なぜ、女であるお前がスパイなど続けていける…？」
「…私が信じるものは私だけですよ。ただ、それだけです。」
「そう、か。」
佐久間はどこか寂しそうに呟いた。
大東亜文化協會の前に来た。
秋山は佐久間に向き直った。
「ここまで送ってくださってどうもありがとうございました。…佐久間さん、死なないでくださいね。約束ですよ。」
その刹那、佐久間の瞳がフッと揺れた。
しかし、佐久間は強い意志を持って答えた。
「この命、無駄にするつもりはないさ。約束する。」
秋山は敬礼をして、佐久間に餞別の言葉を言った。
「佐久間中尉殿、ご武運を。」
「ああ、お前も、無事でいることを願う。」
佐久間も敬礼で返した。
秋山は踵を返すと、大東亜文化協會の扉を開け、中に入っていった。
佐久間はその背を見送った。
次に秋山と佐久間が出会うことになるのは、砂塵が舞い、砲弾が飛び交う満州の荒野となるのだが…。
そんな未来を2人は知る由もなかった。
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kk10299750(プロフ) - あさん» ありがとうございます！光栄です(^^)頑張って書き進めます！ (2016年10月19日 23時) (
レス) id: 94db77b54b (このIDを非表示/違反報告)
あ - 面 白 か っ た で す 次 が 楽 し み で す (2016年10月19日 16時) (レス) id: ab5963e87e (このIDを非表示/違反報告)
kk10299750(プロフ) - つがるさん» ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです(^^)もっと面白い話が書けるように精進いたします！ (2016年10月9日 12時) (レス) id: 94db77b54b (このIDを非表示/違反報告)
つがる - 面白い小説ですね！更新楽しみにしています^ ^頑張って下さい！！ (2016年10月9日 10時) (レス) id: a382114b2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：有馬 | 作成日時：2016年9月26日 23時
