ずっとあたたかい愛の中で (ページ10)

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「で、なんだっけ。河村からもグイグイ行きたいって話だっけ？」
「……」

僕が恨めしい視線を向けると、ふくらはなはは、と例の独特な笑い声で笑った。
間違っちゃいないが、言い方がこそばゆい。

「とりあえず、やられっぱなしじゃ気に食わないって話」
「ならやり返せばいいじゃん……って言いたいところだけど。河村にはそう簡単には難しいってこと？」

頷くと、僕のことをよく知っているふくらは眉を下げて笑った。
そう。ここでいう「やり返す」は自己表現の苦手な僕にとって、あまりにもハードルが高すぎるものだった。
伊沢の愛を受け止めるだけでも僕の脳内処理は追いついていないのに、僕からアクション？無理無理。
僕からも押してみたい、伊沢の知らない一面を見てみたい……それは本心なのだけれど、残念なことに僕には到底無理なことなのだ。
もし頑張ったとして、多分羞恥心が勝って伊沢ににやにやされて終わりな気がする。

「そんでどうにもならないから、今こうして君に助けを乞うてるわけでございます」
「なるほどねえ」

ふくらが顎に手をあてながらしばらく思案する。
しばらくすると思いついてくれたようで、やがて「まずはさ、」と切り出した。

「ちゃんと伝えるところからじゃない？」
「何を？」
「好きだよ～、って」

うーん、いきなりハードルが高い。

「言えるなら、きっととっくに言ってるんだよなあ」

伊沢が僕の目を見て好きですと言った時、ふにゃふにゃの笑顔をかわいいと思った時、ぎゅうぎゅう抱き締められた時。
その言葉が喉から出かけるタイミングは今まで何度かあったのだが、未だそれが実際に紡がれたことはなかった。
伊沢の真っ直ぐな目に見つめられると、元々の苦手に恥ずかしさやらいたたまれなさやらなんやらが加わって、ついに閉口してしまうのだ。

「その、恥ずかしいんだよ。どうしても……」
「見つめ合うと素直におしゃべりできない？」
「TSUNAMIか」

ツッコミで照れを隠したのはどうやらバレているらしく、またにやにやと笑われた。うるさいな。

「じゃあさ、顔見ないようにっていうのはどう？」
「たとえば？」
「後ろからとか？照れた顔みたいなら、ぎゅってしてみるとか」
「なるほど……」

顔が見えなければ、いけるかもしれない。
真正面から挑むよりは、幾分もハードルが下がるはず。
記憶では僕からハグを仕掛けた覚えはないから、きっと驚いてくれるんじゃないかな。