ずっとあたたかい愛の中で (ページ8)

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「河村さん」

ぼうっと考えていると、痺れを切らした伊沢が後ろから僕に抱きついてきた。
首もとに体温を感じて心臓がはねたが、動じるのも癪なのでパソコンのキーボードを打ち続ける。

「あとちょっとだから待って」

僕が言うと、横に伊沢の頭がにょき、と出てきてパソコンを覗いた。
ジロジロ見られるとやりづらいが、待たせているのは僕なので我慢してやるとする。

「これ俺が見ていいやつ？」
「駄目なやつ」
「えっ」
「嘘」

してやったり。
笑ってやると、伊沢が「も～」と嘆きながら頭の上に体重をかけてきた。

「重い」
「愛の重さです」
「あ、そう……」

すぐに反撃されてしまった。
こいつはこうして、どんな恥ずかしいことでも平然と言ってのけるのだ。
「好き」だの「愛してる」だの、僕を上書きしていくように、たくさん。
2人きりの時はもちろん、職場でも。
仕事中に突然耳元で囁かれた時は、思わず叫んでしまった。
今は最初に比べれば大分慣れたほうだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

「あれ、河村さん照れてるんですか？」
「照れないほうがおかしいってずっと言ってるでしょ」
「照れてるんだ。かわいいっすね。好きです」

後ろから頬にキスが落とされた。
……外国映画の世界か、ここは。
某ボンサバドゥでもこんなことはしないと思うのだが、我らがCEOはやるのだから分からない。

「……はい、もう終わったから」

ノートパソコンを閉じて後ろを向くと、次は口にキスをされる。
……うーん、甘い。

「帰りましょ」
「はいはい」

荷物を準備し終わって、外に出る。
向かう先は僕の家。僕の家のほうが伊沢の家よりオフィスから近いこともあって、伊沢はよく僕の家に来るようになっていた。

並んで歩いてしばらくすると、ひょい、と手が差し出される。
多分、繋げという意味。
従って手を添えると、力強く握られる。
人に見られたらとか恥ずかしいからとかそういう文句を黙殺されたのはもう3週間も前のことで、僕は文句も言わずにその手を握り返した。
そうすると伊沢が少年のようにへら、と嬉しそうに笑うから、まあいいかななんて思ってしまうのだ。

正直に言うと、満更でもない。ものすごく。

しかし、僕には不満があった。
というのも、いつでも伊沢優位なのが少々ーーいや、かなり気に入らない。
僕ばかり押されているようで、嫌だ。
僕だって伊沢の驚いた顔とか照れた顔とか、そういう一面を見てみたい……そう思うのは、おかしいことだろうか。