「好きだよ」 (ページ8)

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58話　side-ru ページ8

ある日幼稚園で先生に「好きな人にお手紙を書きましょう」って言われたんだ。
先生の話が終わったとたん、みんな一斉に好きな女の子、好きな男の子に向けて手紙を書き始めたんだよね。
周りの友達は楽しそうに手紙を書いてて。
僕はみんな大好きだから誰か1人を選んで手紙を書くなんてできなくて、だからつまんなかった。

まわりの友達が手紙を書き終わって、好きな子に渡してるのを僕は眺めてたよ。
最終的には「お母さん、いつもありがとう」って書いた気がする。これが１番無難でしょ？

幼稚園を卒業して、小学校に通ったとき。
幼稚園で漠然と感じていた「自分は『普通』じゃない」ってことを明らかにすることが起きたんだ。
確か、3年の時だったと思う。
その時、流行ってたドラマがあってね。不倫ものなんだけど。
今考えると3年で不倫ドラマを見るってかなりヤバイと思うんだけどね。
そのドラマのシーンでこんなのがあったんだ。

「好きな人がたくさんいるなんておかしい！」

その言葉を聞いたとき、僕の体は重りをつけられたみたいに重くなって。
ああ、やっぱり僕はおかしいんだ、『普通』じゃないんだって。

小学校の卒業式が終わったあと。
僕は同じクラスだった女の子に呼び出された。
なんとなくだけど告白されるのかなあ、なんて思ったりしながら待ち合わせ場所に行ったら、女の子が待ってて。
案の定、告白されたよ。
…でも、断った。
その女の子と仲は良かったから恋愛感情はあったんだけど、他の好きな人たちのことも考えてしまって。
…やっぱり1人だけと付き合うなんて考えられない。

「ごめん」って言って僕は逃げた。
後ろから女の子の泣く声が聞こえたけど振り返らずに逃げた。

中学校に入って、僕には決めたことが１つあったんだ。
それは、「新しい友達は作らない。関わるのは小学校の友達だけ」。
違う小学校だった人は話しかけてくれるけど、僕は頑なに拒み続けた。

そしたら、小学校の友達も「お前そんなやつだったのかよ」「人の好意を踏みにじるなんて最低なやつ」って言って離れていった。

…これでいいんだ。
人と関係を作らなければ、僕が好きになる人はいなくなる。

…でも一人は寂しいなあ。

僕は自分の心に嘘をついて、中学校3年間を過ごしたわけ。

『まもなく～～。
お出口は右側です』

あ、そろそろ僕の最寄り駅に着きそうだね。
え、まだ聞きたい？
ダメだよ。続きはまた会えたら、ね？
聞いてくれてありがとう、じゃあまたね～！