「好きだよ」 (ページ13)

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63話　side-mm ページ13

しゃきんしゃきん、とハサミの音が響くと同時に視界がどんどん明るくなっていく。
「ねえ、まだ着替えてないけど学校は？」
私立中学に通っている弟はもう家を出ないと、いつも乗る電車に間に合わない。
なのにまだ寝巻きを着ていて何も準備なんてしてないみたいだ。

『うーん…今日は休む！』
笑顔でそう言った弟はハサミを置くと、今度は別の引き出しを開けた。
そこには綺麗に並べられた化粧品があって。
『蓮ちゃんはマットのほうが似合うかな』
『アイシャドウはブラウンでしょ』
『チークは主張しすぎないようにして』
『リップは赤！』

『できたよ！蓮ちゃん！』
弟がそう言って満足げな顔をしながら私に手鏡を渡してきた。
「…おお」
『お人形さんみたい！蓮ちゃんかわいい～！』
そう言って弟は私にぎゅっと抱きついてきた。
それよりも…。
「この髪型…」
『中学の時蓮ちゃんその髪型だったでしょ？テクノカットっぽいやつ。
ただ蓮ちゃんは後ろ髪が長いからテクノカット、とは言えないけど』
「…」
『じゃあ、仕上げにスプレーするから動かないでね』

顔にパウダーと前髪に軽くスプレーをされて。
「…ねえ」
『あ、蓮ちゃんそろそろ家出ないと遅刻しちゃうから早く行きな！
今日使ったコスメは全部あげるから！リップは何回か塗り直すこと！わかった？ティントじゃないから落ちやすいからね。
コスメが入ったポーチ、かばんにいれておいたからね！
じゃあ、いってらっしゃい！』
弟はそう言うと、私を部屋から追い出した。

電車に揺られて学校に向かう。
規則的な揺れがいつもより少しだけ早起きした私に睡眠をするよう促しているみたいだ。
かばんの中を確認したら金曜日には入ってなかった黒いポーチがあって。
その中には、かわいらしいパッケージの化粧品たちがきれいに入っていた。