ロジック (ページ7)

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「あの…」

「もうさ、全然、例の上司が帰らしてくれへんの。ほんまいい加減にしてほしいわ。久々のデートやって、前から言っとったのに」

こちらに何も言う隙を与えず
スラスラと喋る男はモスグリーンのネクタイを緩め
流れるように隣に座った。

ふわりと、ネロリの甘さと苦さが混ざった爽やかな香りが鼻をかすめた。

男は、私と同じく、ぽかんと口を開けている好青年を振り返り

「こんばんはあ」

と言って、にっこりと笑った。

笑っているのに、威圧感が漂うのは、身長が大きいからだろうか。

好青年は目をキョロキョロと動かせたあと
ぎこちなく笑顔を返して

そのまま席を立ち、会計をすませて店を出ていってしまった。

あまりにも早い展開に、ずっと固まったままでいると

長身の男はカクテルを注文して
私のグラスを指差し

「空いてんで。何飲む？」と問いかける。

「…モスコミュールで」

「やって、マスター。頼むわ」

マスターは軽く会釈をすると

静かにグラスを用意しはじめた。

「あかんよ。知らない男の誘いにホイホイ乗るのは」

「…あなたも知らない男ですが」

「ハハ！そうやね」

整った顔をしているからか、
くだけた関西弁と大きな口を開けて笑う姿が
なんだかチグハグで、意外性を煽る。

「それに、まだなにも誘われてませんでした」

「でも、誘おうとしてたやん。明らかに」

「まあ…そうですが」

「あ、そこはちゃあんと分かってたんや」

「馬鹿にしないでください」

「してへんよ。ただ、あーいうのはタチが悪い男やからな、気をつけてって言いたかっただけ」

「そんな悪そうには見えませんでしたが。少なくとも、あなたよりは」

「なんやそれ。心外やな。俺、そんなあやしい？」

「関西弁でニヤニヤ話しかけてくるあたりが」

「ふーん、そっか。じゃあ、そんな君に、
タメになること教えてあげようか。
本当の悪人っていうのは、悪人の面はしていない。良い人を演出して、近づいてくる」

とたんに流暢に、完璧な標準語で話しだした男は
私にすっと手を伸ばしたかと思うと

手を拳銃の形にして
私の額をねらう。

「そんで、相手が油断したところで、バーンや」

拳銃の手はくいっと上にあげられ
ニヤリと笑うその顔は、まさに悪人のそれで
思わず笑ってしまった。