ぺんぺん草３【安井謙太郎】

111. ページ11

.






ファンの人たちへの発表を終え、

心穏やかな気持ちのまま、その日の夜は

２人並んで誰もいない道を歩いた。






「ここらへん、暗いね」






街灯がぽつりぽつりとしかないこの道は暗く

人通りも少ない。




思わず出た言葉を受けて

「これくらいがちょうどいいよ」

なんて言って笑う安井くんは




いつでも前を向いていた。







安井「なーんか、用意しとけば良かったなー」



「なにを？」



安井「え？堂々と付き合えた記念日にさ、

花束…とか？笑」



「えー、安井くんが花束渡してくれるの

なんか似合わなーい」



安井「は、なんでだよ！」







小さく小突かれて、クスクス笑う。







「安井くんはさ、花じゃなくて葉っぱでしょ？笑」


安井「なに？葉っぱ？」


「植物園の園長さんだもん笑」


安井「お、馬鹿にしてんな！？」


「痛い痛い！！笑笑」







頭をぐりぐり拳でやってくるし、

扱いが雑いな。








安井「もー、そんなん言うやつには…」







安井くんは徐に隣の木の下の

草が生い茂ったところへ行きしゃがむと、

なにかをちぎって持ってきた。








安井「花束じゃなくてこれプレゼントにしてやる」


「なにこれ！ただ拾ってきたやついらないよ！」


安井「これ、有名な植物だし！」


「なに？」


安井「いや、ナズナだよ！！知らないの！？」


「あー、七草粥のね！」


安井「なんで食べ物になるかな〜」







そうだけどさー…なんてグチグチ言う安井くんは

ナズナを親指と人差し指とでつまんで

くるくると回す。







安井「知らないなら、調べてみなよ」


「…ナズナねぇ」






携帯を取り出し、検索をかけると

ナズナと違う呼び名が見えて

ちょっと笑えてしまった。







「…ねぇ、ナズナなんてかっこつけるのやめなよ笑」



安井「なんで」






携帯に出た画面を見せると、「ははっ」って笑う。







【ナズナ(ぺんぺん草)】






「ぺんぺん草って言いなよ笑」



安井「ぺんぺん草ってなんかダサいじゃん」



「でもぺんぺん草の名前の由来って、

三味線のバチに似てるからなんだって。

ほら、昔三味線してたし、そっちの方がいいよ！」



安井「うわー、懐かしっ！て、いつの話してんの笑」







安井くんの手からぺんぺん草を奪い、

私もくるくると回してみた。

112.→←110.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す