今日、君を拾った (ページ28)

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君を拾った28 ページ28

「あの〜…それでですね……」

「？はい」

「お名前をお伺いしてもよろしいですか…？」

「……なまえ、」

「はい、名前を。あっ！私の名前は知っているようですが一応自己紹介させてください。W国…元幹部、エーミール・シュメッターと申します」

「よろしくお願いします」と綺麗にお辞儀したシュメッターさんを見て、私はようやく思い出した。
そうか、人間って初めての人には自己紹介するんだった……
まさかここにきて人とのコミュニティに属さない弊害が出るとは…！妖精と生活する中で私の呼び名が『可愛い愛し子』とか『私たちの愛し子』だとかそういうものばかりだから名前という概念を忘れていた！

そうか、名前…名前………名前、なんだっけ………

「………えぇ、と…私は……Aといいます、たぶん…」

「たぶん？！」

「いや、あの…自己紹介とか、名前とか、そういうものとは無縁の生活を送ってきまして……名前があるのはわかるんですけど…ちょっと記憶が………朧気で」

「は、はあ……」

「Aで大丈夫です！頑張って反応します！」

「……ふっ、ハハ！Aさん、面白い人やなあ、…」

「…そうですか？」

「そうですよ！…んふふ、…これから少しの間、よろしくお願いしますね」

「あっ、よろしくお願いします…」

差し出されたシュメッターさんの手を握る。握手の仕方は覚えていてよかった……
自己紹介をなんとか済ませて、私はシュメッターさんに家の中を案内する。猫はとてとてと私たちについてまわっていた。君もここを使うから覚えなきゃだもんね。

案内が終わるのを見計らって、妖精たちがご飯を持ってきてくれたらしい。戻ってきたリビングのテーブルの上には温められたご飯、マリィに供えられた食料が置かれていた。
お供え物を食べるのに少し抵抗があるが…妖精たちは人間と同じようにご飯を食べる訳では無い。このまま捨てるなら食べた方がいいだろうと有難くお供え物を頂いた。

シュメッターさんと今後の目標の擦り合わせやこの家でのルールを軽く決め、もういい時間だったので互いに風呂に入ってそれぞれ寝ることになった。私1人しかいない女湯はだいぶ広かった。幹部の中に女性はいるのだろうか？いないのならこんなに広くなくてもいいんだけどな……