今日、君を拾った (ページ1)

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君を拾った1 ページ1

今日、森に雨が降っていた。なにかを懸命に洗い流すかのように降っていた。
花時雨が降る。雨に打たれて花が散る。ピシャリとも音を立てずに花は密かに散ってった。緩やかに散ることも叶わずに、可哀想なくらいに散ってった。
私は散った花びらを一瞥して、森を歩きだした。

この森はよく、雨が降る。地形がどうとか、海があるからだとか、そういうことを聞いたことがあるけど実際は知らない。ただ、この森は知識の有無に関わらずよく雨が降っていることを知っていた。

森の奥に少し古ぼけた小さな一軒家がある。家というには小さいし、水道だって電気だって満足に通っていないけど、そこには私の家がある。
私はほんの少し遠くにある川へ生活水を取りに行っていたのだ。だから、私の手には傘の代わりに布をかけられたバケツが握られていた。

水が入ったバケツは重くて、両手を使わないといけないのがどうしても辛い。この森は雨が降るから、雨水を貯めてそれを使えばいいのだが、このご時世、雨水はあまり飲みたくもなかったのだ。

少し、休憩しよう。

今日の雨はいつもより少し激しい。このまま進んでもぬかるんだ地面に足をとられるのがオチだ。
私は大きな木の下で少し休むことにした。バケツを慎重に地面において、覆っていた布をとって水を絞る。ギュ、ギュ、と絞ってバタバタと広げる。そうしてまた、布でバケツを覆った。

「……ミャゥ、………」

「……猫？」

ふう、と一息ついた所でどこからか、猫の鳴き声が聞こえた気がした。ここは雨がよく降るから動物たちはあまり姿を見せることはない。晴れている時はたまに鳥を見るけど……
私はなんだか、その声が気になってバケツを置いたまま周囲を歩き回った。

「……あっ！」

少し辺りを探せば猫はすぐに見つかった。白地に黄色と黒の斑を持つ三毛猫だった。けれど、所々赤い染みができていて、近くに寄ればそれが猫の血であるとすぐにわかった。

あぁ、猫なんて拾ったことないのに

私はそう思いながらも傷だらけの猫をゆっくりと拾い上げ、自分が来ていた羽織で優しく包んだ。猫は抵抗する気力もないのか、私の顔を睨むように見ているだけだった。
雨で外側は濡れているけど中は濡れていないから、少しだけ我慢してほしい。
私は自身の羽織が赤くなっていくのも構わずに自分の家へ小走りで帰った。