50.葛藤 ページ10
少女の手が、テーブルの上のお冷にかかる。
何をするのか、察した前田が手を出すももう遅い。
ばしゃり。
少女はお冷の氷水を、加州にかけた。
｢私が願っても起きなかった奇跡が、お前に起きるわけがないでしょ。
一期さんの事は大切よ、でも……私はもし叶うならば父様にもう１度会いたかった。
でも、会えなかった。
奇跡なんて起きなかったから。
なのにお前は、また同じ主のもとに顕現したいっていうの？
私を追い出した癖に、一丁前に主主って。
……ふざけるのも大概にしろよ、私は許さない。
私が叶えられなかったことをお前が叶えるのは許さないッ！！｣
加｢−−−……。｣
少女が手にしていたお冷のコップが、再びテーブルに戻される。
空になったコップから滴る水は、少女の空虚な気持ちと涙を流す様を表しているかのようだった。
｢……話は終わりよ。
...審神者さん、申し訳ないけど、もう会うことはないでしょう。
彼を今後どうするかは、お宅でどうにかして下さい。｣
男｢ちょっ……、｣
｢前田くん、帰るよ。｣
前｢主君……ッ！｣
少女はお代を男審神者に押し付けると、足早に店を出た。
そのまま振り返る事なくゲートへ向かった。
その場には、びしょ濡れになった加州と、お代を握りしめたまま呆然とする男審神者が残された。
騒ぎを聞きつけた店員が、加州にタオルを差し出すが、加州は受け取らなかった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
前｢主君っ...お待ちください、主君……！｣
少女は本丸に帰還しても、振り返る事なく足早に執務室を目指す。
途中、少女を見かけた刀剣達は、何があったのかと心配そうな顔で少女の背中を見る。
早歩きで廊下を進む少女を、前田がぱたぱたと追いかけていた。
やがて執務室の襖を、これまでにないほど雑に開けて、少女は転がり込むように机に突っ伏した。
−−もう何もかもが嫌だ。
｢…………前田くん。
人払い、してもらえる？｣
前｢………………。
...わかりました。｣
前田は小さくそう答えると、乱雑に開けられた襖をそっと閉めて、執務室から立ち去った。
少女は声もなく、さめざめと泣いた。
この本丸の事が大好きである一方で、もし、父や...加州達と、円満に過ごせていたなら。
たらればの出来事を、想像せずにはいられない自分に、心底嫌気がさしていた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1030人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつき - コメント失礼します。本当に面白かったです！過去に謀反を起こしてしまったけど最後まで主を守ろうとした加州、かっこよかったと思います！そして清光。主の事を思っていたからこそ距離を置いていたという所にキュンとしました！これからも頑張ってください！！！ (2019年3月29日 21時) (
レス) id: 096c0293d8 (このIDを非表示/違反報告)
… - いい作品でした… (2019年3月26日 6時) (携帯から) (レス) id: 46e1741f78 (このIDを非表示/違反報告)
まりえもん。(プロフ) - 胸が苦しいです...、最後に清光くんの健気な主を守りたいという気持ちが本当に泣けます...素晴らしい作品を作者様、ありがとうございました (2018年12月9日 9時) (レス) id: 327421a364 (このIDを非表示/違反報告)
湖@清光可愛い鯰尾君可愛い亀ちゃん大好き！！！ - そして最後もう一振りの清光…くっついて良かったです！やっと付き合えたね！おめでとう！！！って感じです。凄く良かったです！ (2018年1月16日 0時) (レス) id: 073b3b6cdc (このIDを非表示/違反報告)
湖@清光可愛い鯰尾君可愛い亀ちゃん大好き！！！ - 面白過ぎです！滅茶苦茶感動しました！泣きました…。これからも頑張って下さい！応援して居ます！この作品…大好きです…！清光が折れた時、いくらだめな事をしていても何で折れちゃったの！？って泣きました。 (2018年1月16日 0時) (レス) id: 073b3b6cdc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：弓月 | 作成日時：2017年12月3日 1時
