38. ページ38
.
初めて。初めてだ。
父以外の男の人に、バレンタインのチョコレートを渡したのは。
私は自分の部屋に戻ってきて、お風呂に入りベッドに仰向けにひっくり返る。何とも手持ち無沙汰で、思わず枕を胸元に抱きしめて顔を埋めた。
「ありがとう」と私の手から紙袋を受け取ってくれた時の清川さんの顔を思い出すと、何とも気恥しいやら嬉しいやらで胸の奥の方が擽られるような気持ちになる。こんなのって。
「はじめてだ……」
零れてしまった声に、自分で我に返って枕を抱えたまま起き上がる。何浮き足立っているのか。私のチョコレートにはそんな下心なんて一切込めていないし、だから清川さんもああして受け取ってくれた訳だから。
何に言い訳しているのか、ぐるぐると頭の中を回り続ける自分の言葉に私はふぅーっと長い息をついた。
(明日も大学だし、早く寝よう)
アラームをかけようとスマホを開くと、LINEの通知がひとつ来ていることに気がついて、慌ててそれを開く。
LINEのトークルームの1番上にあった名前は「山本」。枕を手放して彼のトークを開くと、「ホワイトデー、3倍返し期待していてください！」と彼らしい巫山戯たメッセージ。アルフォートの3倍ってたかがしれてるねと返信してトークルームの一覧に戻ると、またひとつメッセージが届いていた。
清川 チョコレート、すごい美味かったです。ありがとう🙇🏻♂️夜遅くにごめん、おやすみなさい。また明後日!返信しなくて大丈夫です
「……」
私は離した枕をもう一度抱えると、噛み締めるように清川さんからのメッセージを見つめる。こうして当たり前のように送られてくる「おやすみなさい」や次会う約束のようなメッセージ。なんでもない内容なのに、送られてくる度嬉しくて、1文字1文字大切に読んで、こんなこともこれまでの人生で初めてだった。
元々コンビニで業務的な会話をかわすだけの関係で、それ以上望んだことなんて無かったのに、彼のことを知れば知るほど、もっと知りたい、話したい、会いたい、膨らむ気持ちに必死で蓋をする。住む世界が間違いなく違うんだ。
平々凡々な女子大生と、かたや登録者300万人越えのゲーム実況者。
浮き足立つ気持ちを落ち着ける呪文のように心の中で唱えると、私は「ありがとうございます」のスタンプだけ返して布団に潜り込んだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1074人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
parumu(プロフ) - かえる。さん» はじめまして！ありがとうございます(；＿；)♡これからも宜しくお願いします〜！！ (2022年8月28日 21時) (
レス) @page38 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
かえる。(プロフ) - 初コメ失礼します!いつも楽しく読ませてもらっています！応援してます！ (2022年8月28日 21時) (レス) id: 06d9623eb5 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - いぬU・x・Uさん» はじめまして！そんなふうに言っていただけて嬉しいです(；；)まだ何も起きていない平和なお話なのですが、楽しく読んでいただけると嬉しいです！ぼちぼち頑張ります〜！ (2022年8月28日 21時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
いぬU・x・U(プロフ) - 初コメ失礼します…！とっても素敵なお話をありがとうございます！！これからも主さんのペースで更新応援しております〜！！ (2022年8月27日 13時) (レス) @page37 id: b1951e364b (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - リーフィア推しの【タクト】さん» そうなのです、読んでいただきありがとうございます🥰 (2022年5月24日 20時) (レス) @page29 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：parumu | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時：2022年4月23日 16時
