18. ページ18
.
交代の時間になり、私と山本は2人揃ってコンビニから出た。東京の冬は凍てつくほど寒くて、高校の時から変わらないマフラーに顔を埋める。
「あぁー！終わった！クリスマスまで働く俺、まじ偉いっすわ！」
「文句言いながらもよく頑張りました」
「佐藤さんも、変なやつに絡まれながらお疲れ様でした」
「はは」
大きく伸びをしてから寒さに震え上がる山本を見て笑う。山本は暫く思案するように言葉を止めると、私の前に回り込み「すみませんでした」と、バッと頭を下げた。「へ？」と間抜けな声を上げる私に、山本は続ける。
「前に佐藤さんに、おっさんの客から助けて貰ったことあったじゃないすか」
「あぁ、うん」
「アレから、佐藤さんが困ってたら次は俺が助けようって思ってたんですけど、今日……チキって声出せなくて」
「……」
「マジですみませんでした」
言いながら山本はもう一度頭を下げる。私はそんな彼を見ながら小さく笑った。山本は、いい加減で口先ばかり回るけど、実際凄く真面目な奴だ。仕事振りを見ていても、普段の振る舞いを見ていても、憎めないなぁとひしひし感じる。私は山本に「気にしないで」と声を掛ける。
「……」
「まずは1人で仕事全てこなせるようになって、その後で私の事助けて。まだ山本に助けられるタマじゃないよ、私」
「……ひでぇ」
「でも、その気持ちだけで十分嬉しいよ。ありがとう」
ふふっと笑うと、山本は照れ臭そうな顔になって「うっす」とよく分からない返事をした。
私が「じゃあ、お疲れ」と言って自宅の方へ踵を返そうとすると、山本は「あの」と慌てたように私を引き止めた。
「佐藤さん、この後空いてます……よね？」
「え」
「メシ行きませんか。クリスマスバイト、お疲れ、的な」
「……」
辿々しく言葉を繋げる山本を見ながら、動きを止める。私の鞄の中には、今夜の晩御飯になる筈の廃棄のお弁当が入っている。そして、この前分割とは言えパソコンを買った私は、あまり余裕が無い。
でも、何だか今日は少しだけ、まだ帰りたくない気分だ。
「……私奢らないよ」
「え」
「割り勘で良いなら」
私の言葉に、ぱあっと嬉しそうにする山本は、犬のしっぽが付いていたらぶんぶんと振っているだろうなという位喜んでくれた。私は笑いを噛み殺した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1074人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
parumu(プロフ) - かえる。さん» はじめまして！ありがとうございます(；＿；)♡これからも宜しくお願いします〜！！ (2022年8月28日 21時) (
レス) @page38 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
かえる。(プロフ) - 初コメ失礼します!いつも楽しく読ませてもらっています！応援してます！ (2022年8月28日 21時) (レス) id: 06d9623eb5 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - いぬU・x・Uさん» はじめまして！そんなふうに言っていただけて嬉しいです(；；)まだ何も起きていない平和なお話なのですが、楽しく読んでいただけると嬉しいです！ぼちぼち頑張ります〜！ (2022年8月28日 21時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
いぬU・x・U(プロフ) - 初コメ失礼します…！とっても素敵なお話をありがとうございます！！これからも主さんのペースで更新応援しております〜！！ (2022年8月27日 13時) (レス) @page37 id: b1951e364b (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - リーフィア推しの【タクト】さん» そうなのです、読んでいただきありがとうございます🥰 (2022年5月24日 20時) (レス) @page29 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：parumu | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時：2022年4月23日 16時
