【企画小説】契約獣と魔術師たち (ページ12)

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第11話:國武直樹ページ12

路地裏に響く二つの足音。オレと東條の音だ。案外足が速いのか、なかなか追いつけねぇ。いや、正確に言えばオレと東條の間隔が変わらねぇんだ。ということは規則正しいリズムを互いに刻んでいることになる。

薄暗い路地裏は噴水と違って静けさが漂っていた。そこにオレたちの音が重なって、妙に緊迫感が感じられる。それよりも気になるのは東條がほんの一瞬見せた不安げな顔。捕まるのが不安と訳が違った。……なんていうんだろうな、自分に対する不安ってやつ？

とにかくそう言うのが見えた。

「てめぇ、本当は余裕ねぇんじゃねぇの」

走りながら問いかけるが肩をピクリと震わせただけ。やっぱ余裕ねぇってか。

「お前の方こそどうなんだ」

「けっ、てめぇの心配はしねぇのかよ」

「……もうすぐか」

ぽつりと呟かれた東條の言葉。何がもうすぐだ。救援でも呼んだのかと思ったがそう言う訳でもないらしい。もう5分くらい追いかけたがそれらしき行動はなかった。

――その時だった。急に体が重く感じたのは。息がいつもよりも上がってやがる。この感じ……毒だ。いつの間にか仕掛けられていたらしい。オレは東條を見据える。心なしか安堵しているように見えた。

「紅き黄昏」

ふと頭上からその声が聞こえたかと思うと視界が紅く染まる。それと同時に黒い杭。これってまさか、彼奴か？この近くにいるのか？
オレが迫りくる黒い杭を見ていると東條の叫び声が聞こえた。目を抑えている。しまった、そう思った途端、オレは紅い空間から東條を引っ張り出していた。

「あーあ、もうちょッとだッたのに。もう、直樹ッたら……ッて、落としちゃッたじゃんかァ」

はぁはぁと荒い息をする東條の背中を摩っていたオレは顔を上げる。思った通り、彼奴――佐藤礼(ゆき)がいた。そして小さい缶のような物が地面に落ちて、中から何かが噴射する。

その煙が鼻を覆った途端、オレは咳き込んでその場に崩れ落ちた。

「低濃度の僕お手製の毒だよ。今の君にはきついでしょ。そこの毒遣いに毒注入されてるもんねェ？まァ、死にやしないから安心しなッて」

なんでオレが毒を仕掛けられたことを知ってやがる。

「あァ、そこの毒遣いさん、僕の幻覚どうだッた？結構いい顔してたよ」

しかも幻覚の感想まで聞いてやがる。言いたいことを言い切ったのか、彼奴はあっという間に姿を消した。

オレは何とか目で追うとしたが目が霞んできやがった。意識を保つのがやっと。自分が情けねぇ。