♦10 ─ 音楽。 ページ10
♦
来て欲しいという言葉から180°変わった、来なくていいという文字列を撫でていた。放課後、各々が自由を求めて飛び出した世界。ノイズの走ったようなビデオテープを差し込んでも何も流れないようにと、求められなかった日の寓居はやけに寂しかった。溜息を吐き出す。どうしようと悩ましくしつつも、赤色を思い出したがそんな彼は、別の所へと行っている。
じくり、噛み跡が痛みを帯びていた。もう痕は存在せず、ただ少し赤を滲ませているだけのソレ。けど、確かにそこが痛くて仕方がなかったのだ。
立ち上がり、椅子を閉まっては教室を飛び出す。行くあてもない、拠り所もない。誰かと叫びたくなる動機に、黙れと強く言い放つ。歩いて、歩いて歩いて歩いて、辿り着いたような先は、一人のライブステージだっただろうか。太陽が、沈む数秒間。ギターを片手に、一人のライブステージだと言いたげな彼がそこにいた。音楽室と書かれている三文字を見つめることもせずに、隙間から覗いた世界は、何色だったのだろう。
｢ぁ、｣
｢え、あ！すいません！もしかして、音楽室使う予定とかって、あった感じですか……？｣
｢いや、たまたま。たまたま、覗いただけです。｣
｢そうなんですね！あ、えと、俺。一年の伊波ライって言います！河橋Aさん、で合ってますか？｣
｢はい、河橋Aです。どこかでお会いしましたっけ、｣
｢いや、え〜っと、そーゆーのじゃなくて…………。｣
｢お噂、ですか。｣
｢まぁ、……………はい。すいません、嫌ですよね、そーゆーの。｣
｢慣れてるので。ギター、弾くんですか。｣
｢あ、はい！ギター好きなんですか？｣
｢好きでも、嫌いでもないですよ。ただ、元カレにバンドマンが居て。ギターとか、スタジオ代とかよく出てたなぁ、て思い出しただけなんです。｣
浮気がバレて知らぬ内に行方をくらませた元カレさん。そんな思い出を滲ませつつ、パチッと目が合ってしまった。ガラッ、と音を立てて扉を開け、後輩くんと言葉を交わす。ただの暇つぶしに思えるようなこの時間さえも、きっと私のための延命措置なのだろうか。
噂で知られているのは予想通り。ギターを見つめつつ、歩み寄っては、椅子を動かして近くに座る。不思議そうな顔を見つめながら｢何か、弾いてとお願いしたら、ご迷惑ですか。｣と問いかけると、君は｢いいえ、弾きます！｣と明るく笑っていた。
♦
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 455人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狸。(プロフ) - あさきさん» コメントありがとうございます〜❕そう言って貰えて嬉しいです🫶🏻ドロっとしたような感情だとか考え表現出来ているようで、嬉しいです🫶🏻チマチマとですが、更新していきたいと思います❕ (3月14日 19時) (
レス) @page11 id: d70759b3bd (このIDを非表示/違反報告)
あさき(プロフ) - ドロドロとした考え凄い好きです！！！(表現の仕方、すみません)続き楽しみにしてます！ (3月14日 17時) (レス) @page10 id: 2e9509526a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：狸。 | 作成日時：2024年3月8日 3時
