♦13 ─ 先約。 ページ13
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君は私を必要だと言ったけれど、それはあくまで買い物のお手伝いなだけで、夜が明けるまで隣りには居てくれないのでしょう?
そんなことを想って、だからその手を振り払おうとしても尚、力が強くて離れることは出来ない。男の子なんだな、と思った。夜明けが来るのが怖くて仕方がない。朝なんて来なくていいと、何度だって叫ぶ心が私には存在する。ぎゅうっ、と手首を力強く握られるから、私はその痛みを感じて、生きていると錯覚する。死んでなんか、いないけど。
「そっちに、行くんですか。」
「えと、」
「俺の方が先に誘ったのに?」
「……………でも、伊波くんは、朝まで隣にいてくれるわけじゃ、無いんでしょう?」
「それはっ、」
「彼らは、朝まで隣に居てくれるんです。その後、お仕事行っちゃって、お部屋に一人取り残されちゃうこともあるんですけど。でも、私が眠るその時まで、隣に居てくれるんです。」
「A先輩。」
「伊波くんは、居てくれないんでしょう?」
ズルい女になってしまったな、と思っていた。
彼の言葉に被せるようにと、彼らの存在をチラつかせる。楽器屋さんで話すことでは無いな、と思いつつも、ぐちゃぐちゃに混ぜこまれた絵の具のような瞳で、伊波くんを見上げていた。夜明けが来ないことを願っていた、明日なんて来なくていいとも願っていた。
夜明け空が揺らぐのを見つめる。確かめるようにと、居てくれないんでしょう?と言えば、伊波くんは口を噤むから。面倒臭い生き物に産まれてしまったことを、いつまでも後悔していた。
電子端末が震えている。返信をしていないから、他を見つけてしまったのだろう。私にとっての救済措置はすぐそこにあるのに、目の前の伊波くんから目線を逸らすことが出来なかった。まん丸、としたような瞳から光が消えたようにも思える。じわ、と汗ばんだような表情を滲ませていたのを、私は知らぬふりをしていた。
「俺の家来ませんか、って言ったら、先輩来るんですか。」
「他に約束がなければ。」
「じゃあ、俺がギター買ってって頼んだら、先輩はどうするんですか。」
「買いますよ。」
「ぇ、」
「伊波くんが望むなら、私はギターを何個でも買いますし、スタジオ代も出します。君が望むのであれば、私はなんだって買いますし、お金をいくらでも出します。」
「なんで。」
「君が、私を必要だとしてくれるのなら、です。」
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狸。(プロフ) - あさきさん» コメントありがとうございます〜❕そう言って貰えて嬉しいです🫶🏻ドロっとしたような感情だとか考え表現出来ているようで、嬉しいです🫶🏻チマチマとですが、更新していきたいと思います❕ (3月14日 19時) (レス) @page11 id: d70759b3bd (このIDを非表示/違反報告)
あさき(プロフ) - ドロドロとした考え凄い好きです!!!(表現の仕方、すみません)続き楽しみにしてます! (3月14日 17時) (レス) @page10 id: 2e9509526a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狸。 | 作成日時:2024年3月8日 3時