♦02 ─ セブンスター。 ページ2
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ギシッ、と鳴り響くスプリング音。
ベッドから身体を起こし、産まれたばかりの赤子のような姿で、サイドテーブルに置かれていたスマホへ手を伸ばした。人肌よりも冷たく、鉛のような重さ。連絡アプリを開き、通知を見つめていた。「明日来れる?」「いまなにしてんの。」「お金貸してほしい。」なんていう至極くだらないような、都合の良さを生産する言葉の羅列を、私は見下ろしていた。
指先でなぞりあげ、既読をつけようとする前に、ベッドのスプリング音を響かせながら私を後ろから抱きしめる、彼氏ではない彼。付き合っていないのだから、彼氏ではなくて当たり前だろう。少しだけ後ろへと体重をかけつつ、腕に手を添えた。
どうかしたの、と問いかけるようにと彼を見つめればふいっと目を逸らされる。何かあったのだろうか、と思いつつ、彼のものである煙草とライターをサイドテーブルから取り手渡すと、軽やかに腕を解かれた。離れていく人肌ほど寂しいものは無い、と私は常々思う。思うだけで、実際はどうかは知りはしないが。
「Aってさ、煙草吸わないんだっけ。」
「吸ったこと、ないです。」
「そーなん?じゃあこれあげるよ。」
「ぇ、」
「好みとかバラバラだけどさ、それでも吸って煙草慣れしといて。」
「今編んでたのに。」
「いーじゃん、どうせ解くんだから。」
紫煙が、揺らぐ。ユラユラと宙を泳ぎ、そして消えていった。
煙草が気になることはなかった、好きとかもない。ただ、よく彼が吸っているなぁと思う程度。あげるよ、との言葉と同時にころんっ、と私の手のひらに落とされる箱。未開封のそれは、セブンスターと書かれていた。歳上の、彼氏では無い人。所謂そういう関係性で、都合のいい女をしている。
帰るつもりも無いけど、下ろされている髪が嫌だから、いつものように三つ編みをしていれば、手で解かれる。振り返り、少し拗ねたような声を出せば、手を伸ばされては頬に手を添えられるから、私はそれに応えるようにと彼の首に腕をかけた。
ぎしり、ベッドが軋んでは沈んでいく。揺蕩う海に溺れるようにと、溶け込む。微睡むような愛なんてそこにはなかった。溶けそうになる快楽もそこにはなかった。だけど、それが安心する。永遠の愛なんてないって教えられてる気分になるから。
でもあなたは、欲しい言葉を紡いでくれやしないのね。そんなことを思う私って、サイテー。
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狸。(プロフ) - あさきさん» コメントありがとうございます〜❕そう言って貰えて嬉しいです🫶🏻ドロっとしたような感情だとか考え表現出来ているようで、嬉しいです🫶🏻チマチマとですが、更新していきたいと思います❕ (3月14日 19時) (レス) @page11 id: d70759b3bd (このIDを非表示/違反報告)
あさき(プロフ) - ドロドロとした考え凄い好きです!!!(表現の仕方、すみません)続き楽しみにしてます! (3月14日 17時) (レス) @page10 id: 2e9509526a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狸。 | 作成日時:2024年3月8日 3時