Over-flow【hidaka.u】

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葵「A！すごかったね！！」



浮所くんを探して、男子控え室辺りのロビーをうろうろしていると、葵ちゃんに声を掛けられた。



A「あ、ありがとう…」

藤井くんや那須くんもいる。





那「次は男子予選だから、浮所と大昇だな」

藤「この会場で一番の声を出そうよ」

葵「却って迷惑かも…」



葵ちゃん達と話しながら、私の目は忙しく浮所くんを探す。




葵「どうしたの、A？」

A「えっ？何？」


那「A、次は本選だな」

藤「緊張してる？」

A「ん…」

葵「大丈夫だよ！Aなら…」




藤「そういえば、さっき浮所と話してたあの『雅』って子も、Aと同じレースみたいだよ」







藤井くんに言われなくても知っていた。



雅ちゃんが予選を1位で通過していた事。




次の試合でぶつかる事も。









A「…ちょっとアップしてくるね」


そう言って踵を返した私の背中に、みんなの声援が飛んでくる。









少し歩いた所で、大昇に出くわした。




大「おー、Aやったじゃん。次が勝負だな」


ストレッチしながら言う大昇に、私も体を動かしながら返す。



A「何とか集中できたよ。大昇も頑張って」







そう返した私の体を、ほんの一瞬抱き寄せた大昇は



大「当たり前じゃん。Aとのデートがかかってるんだよ？」

なんて言う。





固まって動けない私に

「ちゃんと応援しろよ」

と言いながら、大昇はプールへと向かう。









しばらくそのままの体勢で、大昇の背中を見ていた私の耳に飛び込んできた会話。





「飛貴、私のレース見ててくれた？」



『飛貴』呼びに反応してしまう。

私は、声がする方をそっと確認した。








浮「ん…見てたよ」



私が今見ている浮所くんは、さっきの固まっていた浮所くんではなく



学校で「Aちゃーん！」て、元気に私を呼んでくれる浮所くんでもなく







静かに、雅ちゃんと話していた。







雅「まさか、こんなとこで会えるなんて…」



「まさか、飛貴が水泳やってるなんてね(笑)」







浮所くんは、何も言わずに雅ちゃんを見ているだけだ。







雅「ねえ、飛貴。私…飛貴が見てくれてると思って、レース泳いだんだよ」




「…あの頃みたいに、『雅が1番だよ』って励まして欲しいな」









そう雅ちゃんの声が聞こえた瞬間、


ガヤガヤとした会場の騒がしさが、一瞬にして






私の耳には届かなくなった。

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