Over-flow【hidaka.u】

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レース直前。



私は止められないため息と戦っていた。



今から試合だ。落ち着け、落ち着けって思うたびに


さっきの、雅ちゃんを見て固まった浮所くんがチラついて、どうにも集中できない。





自分が思ってるよりももう、ちゃんと私は、浮所くんの事を好きになっていたみたいだ。





A「はあ…」



何度目かのため息をつくと、女子部員のリーダーの先輩が、Aちゃん集中ね！頑張って！と渇を入れてくれた。









自分の名前が呼ばれ、プールサイドに立つ。



ブルブルと頭を振ったけど、全く集中できていない。



こんな弱い気持ちでここに立つのは、初めてだ。









気持ちが弱くなっているからだろうか。



突然目の前に甦る光景。








姉を囲んで楽しげにしている両親の姿。


姉を愛しそうに見る優くんの横顔。







いつだって私は蚊帳の外だった。



いつだって私は2番だった。









でも、今回は違う。


どうしても今日勝って、浮所くんに気持ちを伝えたい。








バンバンと強めに頬を叩いて、前を見据える。









その時だった。



葵「A！頑張って！」



葵ちゃんの声が耳に入って一気に視界が広がった。









その視界の中に入ってきた浮所くん。




昨日のように目を細め、微笑みながら私を見ていた。






それからゆっくりと人差し指を自分の唇に付け




私に向かって、指を向けた。




浮所くんの口が動く。『大丈夫だよ』って。









その瞬間、驚くくらいの集中力が甦ってきた私。









ブザーと共に飛び込んだ水の中。









私は、ぶっちぎりの1位で、予選を通過した。

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