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蒼弥は何も言わなかった。
いつものように私を車に乗せて、荷物を乗せて。
それからハンドルを握る。
私が話し出せば
「お前、笑えるなー」「どういう事だよ」
なんて言って、興味のある話だと
「それはこういう事なんだよ」
って饒舌になる。
でも今日は、曖昧に笑って何も言わない。
慰めの言葉も励ましの言葉も見付からなくて
私はただ、うなだれるしかなかった。
私の住むアパートに着いた時、曖昧に笑ったまま
私の顔を見ず、たった一言だけ蒼弥が言った。
「ベストペア賞をありがと、A」
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
ダメだ、こんなの。こんな元気ないのは。
…この人を笑顔にしたい…！
A「蒼弥、お願い…」
「笑って…？」
蒼弥はやっぱり前を見て、曖昧に笑うだけ。
私はそんな蒼弥を、いつの間にかぎゅっと
抱きしめていた。
A「私…蒼弥が…」
思わず言い掛けた私を、今度は蒼弥がぎゅっと抱きしめる。
黙ったままの蒼弥に連れて来られたのは、蒼弥が一人暮らしをしているアパート。
物が少なく、すっきりとしていて、清潔感のある部屋をぼんやり見ていたら
後ろから、蒼弥が私を抱きしめた。
猪「…優勝したら言うつもりだった。」
「優勝しなかったら、言わずにサヨナラして思い出にするつもりだったんだよ。でも」
「…ごめん、やっぱり我慢できねーわ、俺。」
A「蒼弥…。私は…」
何から言っていいのか、何を言わなきゃいけないのか、混乱して頭がぐるぐるする。
今の私は、はっきりと自覚してしまった『蒼弥が好き』という気持ちに支配されて、それ以外考えられない。
猪「ごめん、ちょっと今俺、聞いてあげらんない」
「お前が、可愛すぎんのが悪い…」
蒼弥はそう言って、私にキスをくれた。
慌ただしく脱がされるペパーミントグリーンのワンピース。
同じくらい慌ただしく脱いだ、蒼弥の白いシャツがワンピースの上に重なる。
私は目を閉じたけど、両親や弟の顔、婚約者の顔は浮かんではこなかった。
ただ、目を閉じる直前にちらりと見えた、少しだけ微笑んだ蒼弥の顔だけが
ずっとずっと目に焼き付いて、離れなかった。
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きっちょむ(プロフ) - めろんぱんさん» めろんぱんさん、いつも励ましのコメント、ありがとうございます！本当に嬉しいです♪次も楽しんで書きながら、めろんぱんさんに楽しんでもらえる作品、考えますね！応援、ありがとうございました♪ (2020年5月19日 23時) (
レス) id: 1ef3c32ee2 (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - きっちょむさんの作品大好きなのでまた作品楽しみにしてます(^^) (2020年5月19日 23時) (レス) id: 3589a32c79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きっちょむ | 作成日時：2020年5月2日 12時
