・ ページ31
.
新しい年が来て、瞬く間に日常が再開していく。
朝起きて、眠気まなこのよしくんを送り出して、
自分も支度して家を出て、
また同じ家に戻ってくる。
その繰り返し。
これは本当に幸せなこと。
だけど、幸せになればなるほど
どうしても不安になった。
いつかこれが壊れる日が来るんじゃないか、って。
私が彼を愛する気持ちは、もうとっくに勘違いなんかじゃなくて本物だと思う。
けれど、「私はよしくんから愛されてる」っていうのが最大の勘違いだったら……
「A、Aちゃーん、Aさーん！」
「えっ？」
夕食の途中、いつの間にか空になったお皿をつついている。
真向かいの席に座ってるのに、彼の呼び掛けに気が付かなかった。
「もー、俺さっきから呼んでるよ？」
「ごめんなさい。ぼーっとしてました」
「A、大丈夫？なんか痩せた？」
「そうかな？体重計乗ってないので分かんないです……」
嘘だ。
明らかに、最近食欲がない。
ちょっと食べたら
すぐにお腹がいっぱいになってしまうのだ。
彼はお箸の手をとめてこう言った。
「あのさぁ、俺、伊達にAの彼氏やってないんだから、分かるんだよ？」
いつもは包み込むような優しさで、
でも、こういう時はちょっと強めに手を引いてくれる感じ。
眉を下げてこう続ける。
「聞かせてもらえない？Aのこと」
「実はこの頃、創作意欲も湧かないし、何を食べてもおいしくないんです。私には料理しかないって思ってたのに」
「そっか……」
おもむろに立ち上がって、私の肩をそっと抱いた。
「俺はAの料理も、もちろん好きだけど、それ以前にAが好きなんだよ。
だからAが壊れたら元も子もないの」
じわりと感じる温もりが、あまりにも深く染みる。
「優しすぎます、」
情けないけど、ちょっと涙が零れてしまった。
「今日は風呂にゆっくり浸かって、たっぷり寝よう。ね？」
よしよし、と頭を撫でられたら、
まるで子供に戻ったみたいな気分になる。
優しい笑顔の彼、その温かい手に全部を委ねたくなった。
この時、私は初めて人に甘える感覚を知ったような気がしている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 84人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ﾖ-ﾘﾝ(プロフ) - 櫂さん» 櫂さん、こちらもお楽しみいただけて幸いです。本当にありがとうございます。いつでも遊びにきてください！ (2022年8月12日 7時) (
レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
櫂 - こちらの作品も読ませていただきました……本当に素敵な作品です。幸せな空間がすぐ想像出来るので、また読みにきたいと思います。完結までお疲れ様でした！ (2022年8月6日 23時) (レス) id: 4f295eac92 (このIDを非表示/違反報告)
ﾖ-ﾘﾝ(プロフ) - ひささん» ひささん、ありがとうございます！ぜひともよろしくお願いしますm(_ _)m (2021年10月19日 0時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
ひさ(プロフ) - 新しいお話、楽しみにしてます！ (2021年10月18日 5時) (レス) @page44 id: d7d462c614 (このIDを非表示/違反報告)
ﾖ-ﾘﾝ(プロフ) - ひささん» ひささん、いつもありがとうございます。そうですよね……やはり寂しさが募りますよね。私の物語がそのようにお役に立てていること、大変恐縮です……！本当に嬉しいです。完結までお付き合い頂けると幸いです。 (2021年10月5日 1時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ﾖｰﾘﾝ | 作成日時：2021年9月19日 1時
