・ ページ4
.
1ヶ月後――
とある朝の生放送の番組に呼ばれた。
VTRで紹介された料理を、出演者が試食するコーナーがあって、
その時に提供する料理を盛り付けるアシスタントになってほしい、と。
実は私の師匠はかなり人脈があるので、ありがたいことにそのご縁で色々とお仕事を絶え間なく頂いている。
言ってみれば、"師匠の七光り"ってとこ。
独立した意味ってなんだ?
とか考えてる時間があれば手を動かす。
クライアントの要望に応えることができればいい。
どうせ私のプライドなんかちっぽけなんだから。
調理場に入って、せっせと準備をする。
VTRが明ける何分何秒前までにタレントの前に提供するなど、
スケジュールが秒単位で決まっているから驚きだ。
映像で伝えるものだから、見た目はもちろんこだわる。
そして、やはり作り手としては、温かいものは温かいまま、美味しく食べてもらいたいと思う。
やがてできあがった料理は、番組スタッフの手によって運ばれていく。
「せっかくなので見学しますか?」
と聞かれて、迷わず「はい」と答えた。
カメラの後ろ側で、撮影スタッフに紛れる私。
4人ほどの出演者の前に置かれた料理。
あ、あのお皿の付け合せ、少しズレてる。
もうすぐVTRは終わってしまうらしい。
「あの、これズレちゃってない?」
私がその異変に気づいたのと同時くらいに、
ある出演者が声を上げた。
それは井ノ原さんだった。
この番組の司会は井ノ原さんなのである。
ただ、そのお皿は彼のものではなく、隣に座っているタレントさんのもの。
よく気がつくなぁと感心してしまった。
「あっ、Aさん!ちょっと直してもらっていい?」
パッと目が合って彼は私を呼んだ。
記憶力がいいんだなぁ。
私がいること、いつから気づいていたのだろうか?
さすが司会者。視野が広い。
……と、また感心している場合ではない。
番組スタッフからも「すぐ直してきてください」と背中を押され、小走りでスタジオ内に足を踏み入れた。
「ごめんねぇ。お願いします」
「いえいえ」
愛用の菜箸を使いながら、適切な位置に戻していく。
「間もなくV明けます」
VTR終了が近づいている。
直しの作業も何とか完了。
「ありがとう」
そう言ってくれたのは、目の前のタレントではなく、井ノ原さんだった。
ワンテンポ初動が遅れたが、逃げるようにしてVTRが終わる前にカメラの後ろへ走った。
84人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヨ-リン(プロフ) - 櫂さん» 櫂さん、こちらもお楽しみいただけて幸いです。本当にありがとうございます。いつでも遊びにきてください! (2022年8月12日 7時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
櫂 - こちらの作品も読ませていただきました……本当に素敵な作品です。幸せな空間がすぐ想像出来るので、また読みにきたいと思います。完結までお疲れ様でした! (2022年8月6日 23時) (レス) id: 4f295eac92 (このIDを非表示/違反報告)
ヨ-リン(プロフ) - ひささん» ひささん、ありがとうございます!ぜひともよろしくお願いしますm(_ _)m (2021年10月19日 0時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
ひさ(プロフ) - 新しいお話、楽しみにしてます! (2021年10月18日 5時) (レス) @page44 id: d7d462c614 (このIDを非表示/違反報告)
ヨ-リン(プロフ) - ひささん» ひささん、いつもありがとうございます。そうですよね……やはり寂しさが募りますよね。私の物語がそのようにお役に立てていること、大変恐縮です……!本当に嬉しいです。完結までお付き合い頂けると幸いです。 (2021年10月5日 1時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヨーリン | 作成日時:2021年9月19日 1時